戯れに中山可穂的野望について語ってみる 
 
             (それにしても意味不明な言葉だな。わざとだけど)

それは真夏、汗をたらたらたらしながら、もんじゃ焼を頬張っているわたしに発せられた。
「で、雨女さんはどうして中山可穂がお好きなんですか?」
「え……」
「はまられたきっかけ、とか」
 一瞬、箸も口も脳までもがとまってしまった。おそらくそのときにもわかるようなわからないような答えを口走ったと思うのだが、えええっと……
 好きなものに理由なんてない、といってしまえばそれまでだが、中山可穂に関してはある。というか、ある、と思う。
 それはもうずいぶん前からいっていることなので、わたしとオフで知りあっている人間は一度ならず聞いたことがあると思うのだが、それが原点のような気がするので書いてしまうことにした。

 世の男性諸氏(女性もかな?)は、えーっと眉をひそめるかもしれないが、そしてひそめつつも、女ってそうだよな、と受容しているのかもしれないが(サイキンは市民権を得ているみたいだし)、中学高校生の時期に、いわゆる「やおい」にはまる人って多いと思う。正直、わたしもはまった口だ。あれの楽しさって何だろう、って突き詰めると、意外に深いものがあるんじゃないかと思うのだが(それは書かない。書けるとも思わないし)、やおいを卒業(笑)してしばらくして、ふと思うようになったのだ。少年同士の恋愛があるように、少女同士の恋愛があってもいいよね、と。
 もし、J○NEのように、女の子が読む少年愛の雑誌ではなく、女の子が読む少女愛の雑誌があったらウケないかな? と。もちろん、そう考えるに至った理由は、いくつかある。
 大きな理由は、やおいが好きで書いたり読んだりしている女の子たちって、意外に現実世界では少女同士のややこしい友情を楽しんでいたり苦しんでいたりする子が多い、と感じられたこと。
 やおいがあまりにも市民権を獲得していて、なんかもっと変わったものがほしいよお、と思ってしまっていたこと(笑)。
 もちろん、最初はこっそり……しか広まらないだろう。二十年くらい前のJU○Eがそうであったように。いま二十代あたりの人でも、きっとわからないだろうな。本屋に買いに行くのにもドキドキし、理解されないことを恐れ、厳選した友人にのみススメ、それでも「あんまり……」と苦笑交じりでいわれたらさっと引っ込める手は忘れずに用意して、「実はわたしもそんなに好きなわけじゃないのよ」といいつつ、マニアな友人間でだけは大いに盛り上がり。あれは一種の秘密結社の雰囲気があった。本屋で探すのだってむずかしい時代だったのだ。いまみたいに駅ビル内の小さな本屋にまでボーイズラブコーナーがあるのとは違うもの。

 たぶん、少女のための少女愛小説雑誌が出たら、最初はそんな感じ。昔のJ○NEみたいに大と小にわかれて(笑)、大のほうではひらひら服の少女たちとか綺麗な女の子が出てくる映画とか特集してもらっちゃってもいい。あんまり偏らず、綺麗なファッション誌みたいな感じで。小説と漫画のほうは下品になりすぎず、切なく、綺麗にまとめてもらって……。現存するビアン雑誌のえげつなさとは程遠い、ほんとうに少女のためのものにして。だから、恋愛じゃなくたっていいのだ。女の子たちの物語なら。加納朋子の「いちばん初めにあった海」、あんなのだっていいわけだし。
 たぶん、そんな風に思い、そういう雑誌とかないかしらん、と思っていたころに、新聞で中山可穂の(たぶん、「白い薔薇の淵まで」だと思う)書評を読んだ。そういう雑誌とかないかな、と思ったからといって、それまで別にビアン系小説を選んで読んでいたわけではないので、うかつなことにそれまで中山可穂の名を知らなかった(正直、わたしがそれまで読んだ少女愛系小説って……松村栄子「僕はかぐや姫」とか(これって違うかな?)、グリフィス「スロー・リバー」とか(これも厳密にはハードSFの部類だろうな)だけだったくらいだし。あ、ちなみにいまでも別に選んでは読んでいません。可穂さまのみ)。わたしは書評を読んで、すごい、と思っても即手を出すことはせず、他人にススメて満足する、という悪い癖がある。このときも、以前から「少女愛雑誌創刊の野望」を聞かせていた某知人にメールするだけで満足し、実はそのまま、アメリカに行ってしまった(苦笑)。
 だから、帰国して新宿紀伊国屋で「猫背の王子」を手に入れ、図書館で「サグダラ・ファミリア」をほぼ同時に手に入れたのが(もしかしたらこれとややずれて「白い薔薇の淵まで」)、中山可穂との正式の出会いだ。

 そして、思った。この人を中心にしてなら、雑誌が創刊できるのではないか、と(ありえないとは思うけどさ……夢です、夢)。
 中山可穂とか狗飼恭子とか、加納朋子あたりにも出張ってもらって……松村栄子ももちろんいいですね。長野まゆみはだめかな? 下品にはならず、切なく、綺麗に。J○NEの挿絵で沸かせてくれた吉田秋生だって、こっちにも描いてくれるんじゃないかしらね? 「櫻の園」なんて綺麗だし。そういう雑誌ができたら、意外に書いてみたい少女小説家、少女漫画家もいるんじゃないかなあ……でも、さっきあげたメンツ考えたら、けっこう純文学系小説雑誌になるんじゃなかろうか。ミステリまじりで? すごい(笑)。
 そして、読むのは、いま少女で、かつて少女だった女性だけ。こっそりと本屋で手に入れ、バッグに忍ばせ、互いにその本を読んでいるなんてことはおくびにも出さず。でも、ふとした折に共通の話題が見つかって、そこから大いに盛り上がる……他の人は誰も入ってこられないほど、濃密な世界。
 そう。わたしが中山可穂を好きなのは、可穂さまを中心に据えたら、以前からの野望がかなえられるんじゃないかと、そんなことを考えているからなのだ。
 なーんて、やっぱり好きなものは好き、なのが事実かもしれないけれど。
 誰か冗談でもいい、定期刊行物じゃなくてもいい、イッパツ狙いでいいから……そういう本、作ってくれないかしら。密かな密かな願い(野望というのは、だから、嘘)である。



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