あたしは主人公にはなれない。あたしには何も起こらない。
                   「図書室の海」 恩田陸 新潮文庫


 卒業生志田啓一の読んだ本を追ってみようとした関根夏は、いつしか、同じ本をもうひとりの生徒が追っていることに気づく。そしてまた、相手の少女もまた、夏が啓一の本を追いかけていることを知り、あからさまに嫌な視線を送ってきているようだ。そんなことを気にしつつも、高校生活はどんどん過ぎてゆく。決して主人公にはなれない夏だけれど。けれど、そんな夏にもたったひとつ、秘密があった。学校に伝わる<サヨコ>伝説に関わる秘密だ・・・・・・
 短編集。
 「図書室の海」はもちろん「六番目の小夜子」の前日譚だが、この短編集には他にも、「麦の海に沈む果実」「夜のピクニック」の前日譚が収められており、そういう意味では恩田陸ファンには必見の一冊となっている。だが、もちろんそれだけではないし、さまざまな趣向を凝らした作品が収められているということを考えれば、恩田陸がはじめてという人が読んでも楽しめるかもしれない。
 海のように思える図書室で、本を探し、語り合い、ちょっぴり秘密を抱えている。そんなささやかなシーンが素敵な「図書室の海」。自分の母校の図書館を思い出して、ちょっとせつない気分になったりする人も、きっといるんじゃないかと思う。



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