「レティア、わたしだってやりたくなかったわ。でも神がやれとおっしゃったの。神がおっしゃったのよ。どうして神に否と言える?」
         
「サソリの神2 アルコン 神の化身アレクソスの<歌の泉>への旅」キャサリン・フィッシャー(井辻朱美訳) 原書房

 前作、「オラクル」で神となったアレクソス、その彼を支えていた巫女ミラニィ、酔いどれ楽師オブレク、書記セトたちのその後である。
 思いがけない成り行きで、自分の思惑どおりにことを進めることができず、アレクソスを受け入れざるを得ないこととなっている将軍アルジェリン。しかし彼は、いまだに<語り手>ハーミアを通じて偽りの神の声を民に聞かせていた。だが一方で、アルコン就任の折に降った雨も人々を潤すには足りず、水不足が人々を悩ませていることも事実だった。アルジェリンが隠そうとしているもの、そしてこの水不足を解消できる唯一の方策。それは失われた<歌の泉>を探し出すことに他ならない。アレクソスはアルジェリンの意に背いて、わずかな供だけを連れて<歌の泉>を目指すことを民の前で宣言する。
 砂漠を旅するアレクソスたち。だが一方、島に残ったミラニィにも危険が迫っていた。オラクルの不正を知ったレティアが、みずから<語り手>になることを条件に、真珠の皇子と組んで、将軍アルジェリンと現<語り手>ハーミアへの戦を仕掛けたのだ。攻撃される港。荒れる街。正しいこと、守らねばならないものはいったいなんなのか。
 今回は砂漠を旅する一行の、極限状態の冒険、その中で見える人間としての真実の姿。<島>に残ったミラニィを取り囲む人々の政治的な陰謀、かけひき。これらが互いに共鳴し、光となり影となり、ひとつの大きな物語を織り上げている。ぐいぐいとひきつけられること間違いない。前作でも感じていたのだが、将軍アルジェリンも脇役ながら決して手が抜かれておらず、というよりも、悪役ながらに悲劇的な影を背負った存在感は圧倒的。残念ながら、この物語は、さあこれからどうなるの!? ってところで第三巻に「つづく」形で終わっているので、これ一冊では読めませんが……早く出てくれないかなあ、続き。とにかく面白いシリーズであること、間違いない。



「サソリの神1 オラクル」へ
「サソリの神3 スカラベ」へ
オススメ本リストへ