神さまはおられない。
ミラニィはずっと恐れてきた。こんな不敬な自分の考えを口に出してしまうことを。
「サソリの神1 オラクル 巫女ミラニィの冒険」キャサリン・フィッシャー(井辻朱美訳) 原書房
神殿で神に仕える<九巫女>のひとり、ミラニィ。ネズミのようにおくびょうで、巫女としての毅然とした立ち居振舞いもちゃんとできないような少女が、厳格に定められた位階の第二位、<神の運び手>に選ばれた。しかし、これは喜んでばかりいられる事態ではない。<運び手>の最長生存記録は六ヶ月。神――サソリや蛇の入った器を運ぶ彼女たちの仕事は、命がけなのだ。しかも、ミラニィは神を信じてはいなかった。誰もが神を信じるこの世界で、ミラニィはどうしても<語り手>の言葉を信じることができず、神そのものの存在も信じることはできない。
そんなミラニィが雨乞いのために自らを犠牲とした現人神アルコンの臨終に立会い、神殿の陰謀を垣間見てしまったことから、物語は急展開を迎える。10歳の健康な男の子のうちによみがえるという神を、でっちあげようとしている将軍アルジェリンと<語り手>。しかし、ミラニィには本当の神の声が聞こえるのだ。ミラニィに助けを求め、迎えに来てくれと頼む神の声は、幻聴なのか、それとも真実か。ついにミラニィは臆病なこころに鞭打って、勇気をだして神殿に立ち向かうことを決意する。
臆病な女の子である巫女ミラニィ、出世欲に目がくらむところにも人間味を感じさせる書記のセト、飲んだくれの楽師でアルコンに仕えていたオブレク。魅力的な登場人物と、しっかりとした世界観によって支えられた鮮やかな<島>の姿。とにかくおもしろい。
それにしても。神は天ではなく、人の内側にいる。神を内側に抱くゆえに苦悩した老アルコンは自ら死を選ぶようにして死んでいったのだが、それゆえに、最後のシーンのなんと痛々しいことか。物語のもたらした静謐な瞬間に、しばし現実を忘れるほどの余韻が残る。
三部作ということだが、もちろんこの本だけでじゅうぶんに楽しめる。絶対のオススメ。
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