「おれにとっては、特別なんや。全然ふつうとちがうんや。ほかのやつとは、ちがってて……歩だけなんや。特別なんやな、やっぱり」
「The MANZAI」あさのあつこ
中学2年の秋、「ぼく」、瀬田歩は『おつきあい』を申し込まれた。相手は次期サッカー部のキャプテンともいわれる同じ二年三組の秋本貴史。歩よりは一回りも大きい体、ときどきふっと見せる表情も、気づかいも、いかにも「大人」を感じさせる相手。大慌てで逃げをうつ歩だが、秋本が申し込んできたのは「漫才の相方」だった。転校してきたばかりの歩のどこがどう気にいったのか、一目見て感じるものがあったのだという。かくして、「あのさ、おれ、おまえに惚れてるんやないかと思うんだけど」なんて平気で口走る秋本と、文化祭で「漫才ロミオとジュリエット」をやるはめになってしまった歩。けれど、父と姉をなくし、人とのつきあいや、学校や、そんなものに不安やつらさを感じていた歩に、秋本とのつきあいは、確かにささやかな変化、わくわくするような楽しさをもたらしていた。
成績優秀の高原、人生は「愛と恋とエロ」だといいきり、歩と秋本をたきつける森口、ちょっと太めでゆったりとした篠原、秋本とサッカー部でツートップを誇る蓮田。クラスメートの陰謀にも似た協力体制に巻き込まれていく歩のあわてふためくさまが、なんとも可愛い。片想いの相手である萩本恵菜は、秋本が好きだということを公言しているくらいで、歩のことはライバルとしか思ってくれない。そんなことはないといくら否定しても。
ひとつのことに盛り上がっていく中学生の姿がきっちりと描かれていて、なんとも微笑ましい作品でもある。性格が抜群によい秋本と、うじうじ系の歩の今後が楽しみな第一作目。
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