「あそこでは人生が無駄に過ごされている。あそこでは人は世界の上でくらしているだけだ。ここでは世界の中で生きることができる」
「頭蓋骨のマントラ」 エリオット・パティスン(三川基好訳) 早川書房
チベットの奥地、ラドゥン州の強制収容所で、第四○四建設部隊の囚人が男の死体を発見した。高価な西欧の製品を身につけ、真新しい本物のアメリカ製ブルージーンズをはいたその死体には頭部がなかった。そして、四○四部隊の僧たちは血塗られたその場所での作業を拒否する。中国経済部の元主任監察官であり、現在は四○四部隊の一員として僧たちに深い共感を寄せる単は、部隊をトラブルから救うため、責任者である譚大佐に半ば脅されて強制的に死者の謎を解く任務につく。助手としてつけられた元僧侶のイェーシェー、監視役の馮軍曹とともに調査をはじめた単。それは大佐が当初考えていた筋書きとは異なっていった。それこそが、有能な監察官である単が囚人に身を落とした理由、真実を追究する執念を捨てることのできない性格のなせるわざであったのだ。こんなことをしてなんになる、と思いながらも調査をやめられない単、囚人から解放されることだけを望み、小ずるいところもあるイェーシェー、粗野で頑固な軍曹。生い立ちも身分も性格も何もかもが異なる三人だが、事件の調査を通じて互いになくてはならない関係になってゆく。果たして真実はどこにあるのか。
就職祝いにくらさんからご紹介いただいた本。
チベットと中国との関係がわかっていると、理解度は増すと思う。わたしはそのあたりがいまいちわからなかったので、類推に頼らなければならない部分が多くてもどかしいこともあった。とはいえ、男同士の友情ものとしても、ミステリとしてもおもしろいことは間違いない。実はくらさんの「僧萌え」という話を頭におきながら読んでいたのだが、わたしが気に入ったのは馮軍曹である。どこか「検屍官」のマリーノを思い出させる。粗野で憎まれ役で、けれどもろいところもある。こういう男と、知的なインドア男の友情モノは好きなのだ(ちなみに大佐もけっこうおいしいところをもっていく)。犯人はけっこうあっさりわかってしまうのだが、人間関係に重点を置くとかなり楽しめると思う。
それにしても、この本、続きがあるんだとか。
……軍曹、出てくれないかなあ……
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