「あなた、自分のしていることがわかってるの?」
「ああ、俺はいつだって自分のしてることぐらいわかってるよ」
              
「検屍官」 パトリシア・コーンウェル(相原真理子訳) 講談社文庫

 バージニア州リッチモンドで発生した連続殺人事件。主人公の検屍局長、ケイ・スカーペッタが三人目の被害者、ローリー・ピーターセンの現場に駆けつけるところから物語は始まる。これまでの被害者と同じように残虐な殺され方をしているローリーだが、今回に限っては夫の殺人ではないか――もしくは、夫のマット・ピーターセンこそが連続殺人事件の犯人ではないのかという意見も出てくる。それを明らかにするのは、現場に残された証拠の数々だけだ。微細な繊維や指紋、死体に残された奇妙にきらきら光る物体を吟味することで、スカーペッタは犯人に近づいていく。ところが、彼女を陥れようとする動きもそこここにあって、彼女は油断できない状況に追いつめられてゆく――
 すでにシリーズ12巻目を迎えた検屍官シリーズ、第一冊目。検屍局長、ケイ・スカーペッタは金髪で青い目、すらりとした体格の美人で頭がよくて料理好き。誰もが羨む女性だが、その一方では仕事のストレスがたまりまくって苛々し、天才的な頭脳を持ちながらも中身がまったくのお子様である姪に振り回されるという一面も持つ。一冊目だけではなくシリーズそのものに触れてしまうことにするが、なによりこの小説を単なる推理小説以上のものにしているのが、これまであまりに地味に思われていた検屍という方法をとって犯人を追いつめていくリアルさ、指紋、血液、DNA鑑定のもどかしさや見事さなどを描き出したところにある。そして、どうも馬のあわない相手だとしか思えなかった部長刑事ピート・マリーノとの関係の変化も、シリーズの見所のひとつ。巻を重ねるにつれて、ふたりが長年寄りそった夫婦のような関係になってゆくのも心地よい。

 ところで、最新刊「黒蝿」(2003年12月現在)ではなんと46歳まで若返ってしまった(設定の都合上、というのだが……よくわからない)スカーペッタ。まだまだシリーズは続きそうで目が離せない。
うーん、でも個人的には、姪の若さを羨んだりしながらも、50歳を過ぎても仕事と恋に生きる女だ、ってところも素敵でよかったんだけれど……



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