「人間がやさしいとか、いい人がらとか、そりゃ平和なときなら、だれだってやさしくなれまさ」
               
 「屋根裏部屋の秘密」松谷みよ子 偕成社

 夏休み、いとこのエリコから花姫の山荘に誘われたゆう子は、ただ楽しい夏休みを過ごそうと思っていただけだったが、エリコには別の思惑があった。先日亡くなったじじちゃまが、エリコに残した言葉。花姫の書斎にある何かを、若い世代に托した……それはいったい、なんだったのか。ゆう子とふたりで屋根裏部屋の鍵を探しだすエリコ。だが、そこにあったのはダンボール箱に入った書類のようなものと、茶色の紙ぶくろに入った青い布のくつだけだった。遺言の品の意味がわからず首を傾げるふたりだが、ゆう子はその晩、リュウリィホァと名乗る少女の幽霊と出会った。「わたしをもう一度燃やさないで」とゆう子に頼む少女のことばの意味は何か。しかも、そのダンボール箱が盗まれるに至って、ゆう子は兄、直樹に助けを求める。
 エリコにとっては、やさしいじじちゃまだったが、戦争中、じじちゃまが所属する七三一部隊がしたことは、エリコだけではなく、ゆう子にも理解したくない、できないことだった。若い世代に託された重い重い真実。それらを抱えきれずにエリコが選択した道とは。そして、ゆう子と直樹の決意とは。
 「ふたりのイーダ」続編。幼いときには巻き込まれる形、傍観者としてしか戦争を見ていなかったふたりだが、今回は加害者のひとりとして、戦争というものに向きあうことになる。もし、自分がエリコの立場だったら……。バトンの重みに耐えかねてしまったエリコのことも、理解できる。そのバトンを、拾い上げてくれた直樹のような存在が、いまもどこかにいるだろうか。戦争を知らない世代が、次の世代に伝えなければならないバトンの重みを考えさせてくれる逸品である。



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