――私は生きよう。生きて生きて生き延びてみせる。
「テンペスト」 池上永一 角川書店
琉球王朝末期。千年に一度の龍の目覚めとともに生まれた少女は、男でなかったために父親から疎まれ、名前すらつけてもらえずにいたが、独学で誰にも負けぬ才能を開花させ、健やかに成長する。だが、女が王宮に入ることなどできはしない。そもそも役人になるための科試すら五百倍を超える難関なのである。しかし兄の失踪を機に、少女は自らつけた真鶴という名と別れ宦官と偽って科試を受け、見事、評定所筆者主取の孫寧温となって生まれ変わる。琉球王国のために、琉球に生きる人々のために尽くしたいと願う寧温だが、陰りゆく清国と台頭著しい薩摩とにはさまれた琉球においては常にアクロバティックな外交戦術を求められる。しかも、ついには寧温の秘密を握る者さえ現れ――
……というようなところまでが、上巻半ばである。この後も寧温=真鶴の活躍は続くわけだが、下巻帯の惹句「宦官・寧温は王の側室になった――」でおわかりのように、寧温であったはずの主人公は、いつの間にやら女性・真鶴として王の側室になってしまう。男であっても女であってもほぼ頂点を極めてしまうこの主人公の激動流転の人生(このあたり、同じく性を偽って教皇となる少女の物語「女教皇ヨハンナ」よりさらに上をいっているといえる)。男も刀を持つことが禁じられ、美と教養が重視された琉球王国だったからこそできた業なのだが、主人公の性格がいたってよく、同情(?)しやすいことも、この物語に入りやすい理由になっていると思われる。「レキオス」や「シャングリ・ラ」に登場したような、性格の歪みまくったぶっとび女の聞得大君や清の宦官徐丁垓、真鶴の味方になるがお嬢様爆弾の真美那などに比べると、おもな登場人物である寧温=真鶴、朝薫、雅博はとにかく人柄のよさと頭脳のよさが飛び抜けているだけで極めて普通。読者としては感情移入しやすいつくりになっているのもよい。
ともあれ、時代小説の趣で書かれたこの作品は、これまで「レキオス」や「シャングリ・ラ」のぶっとびかげんについてこられなかった人も、大丈夫! と思われる。おそらく浅田次郎「蒼穹の昴」系統が好きな人は、これにも絶対はまる。オススメ。
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