「おそらく、いずれは、全頭が死滅するだろう」
「テメレア戦記:象牙の帝国」ナオミ・ノヴィク(那須かおり訳) ヴィレッジブックス
応援に来るはずのイギリス空軍がまったく現れず、苦戦を強いられたローレンスたち。しかし、ようやく帰国してみれば、そこにあったのはドラゴンたちを襲った竜疫という現実だった。当初は風邪だと思われていたが、あっという間に蔓延したその病のため、すでに何頭ものドラゴンたちが死に、治す手段がないために、生きているドラゴンたちもいずれはすべて死んでしまう運命にあるという。動けない仲間のために、哨戒活動を続けるテメレア。しかし、ふとしたことからテメレアに免疫があることが判明し、ローレンスたちは仲間のドラゴンたちを連れてアフリカへ向かうことになる。
中国でのドラゴンの扱いを知ってしまったテメレアは、イギリスにおける奴隷解放運動にも一役買い、同時にドラゴンの権利を訴える。その反逆罪ぎりぎりの行動がときにはローレンスをひやひやさせるのは相変わらず。とはいえ、今回は、前回の最後のほうに登場した小さな火噴き竜イスキエルカが大活躍(?)。生まれたときから周囲を混乱に陥らせていた彼女だが、奔放で無邪気なのはいいのだが、自分の好きなように火を噴いたり、木を引っこ抜いたり、船を持ってきてしまったり(!)と、周囲に迷惑をかけっぱなし。全体に暗い話になりがちな今回だが、イスキエルカと、彼女に振りまわされるグランビーのぼやきがユーモアを添えている。なお、イスキエルカ以外にも、病気で寝そべっていることしかできないドラゴンたちが数学について熱く語るなど、思いがけないエピソードも。知性あるドラゴンたちと担い手たちとの交流は見逃せない。
さて、詳しく書くことはできないが、この巻は最後、思いもかけない展開を見せる。いったいこの先どうなってしまうのか……オススメのシリーズ。まだ読んでいない人は、1巻から、ぜひ。
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