あたりには闇しかない。ずっと闇しかなかったのだ。
「戦いの子」 カリン・ロワチー(嶋田陽一訳) 早川書房
「ぼく」(第一章だけ「きみ」として二人称で書かれる)ジョスリン・アーロン・ムゼイが八歳のとき、乗り組んでいた商船<ムクドリ>が海賊船<ジンギス・カン>に襲われた。大人は全員殺され、生き残った子どもたちも奴隷として売り買いされるために残酷な扱いを受ける。船長であるファルコンの愛玩物として、ただひとり、仲間と引き離され、つらい日々を過ごすジョス。しかし彼はファルコンのもとで一年もの日々を生きのび、ついには深宇宙ステーションで隙を見て逃げ出すことにも成功した。だが、逃げだしたジョスを待っていたのは、地球人との戦争を繰り返す異星人たちに味方するシンパと呼ばれる人々の只中だった。当初は言葉さえ通じず、もどかしい思いばかりがつのるジョスだが、彼らの誠実な対応に、ようやく疑いをとき、地球人にはウォーボーイとして恐れられているニコラス=ダンのもとに安住の地を見出す。とはいえ、戦争が終わったわけではなかった。暗殺僧ニコラス=ダンの弟子となる道を選択したジョスを待ち受けていたのは、新たな戦いの日々に過ぎなかったのだ。
『エンダーのゲーム』を彷彿とさせる、というような惹句を目にして手にしたのだが、ストーリー的にはエンダーでは、ない。少年の成長物語ってことで同じくくりにされたのか? ついでにいえば、作者はゲイやジェンダーを扱ったSFやファンタジーで賞をとった人ということで……明確にはされていないのだが、ジョスとファルコン、あるいはニコラス=ダンとの関係は、もっとはっきり書いてくれた方がすっきりするのにな、という状況である。……そういうわけで、好き嫌い、別れると思う(いや、どうせ思わせぶりに書くなら、シーフォートくらい秘してくれれた方が……以下略)。
とはいえ、ミリタリーSFファンは楽しめることと思います。宇宙船の様子とか、訓練シーンとか。二重生活を送りながら成長していくジョスの姿も、よい。同じ世界を基盤にして、別の人物を主人公にした物語もあるのだとか。この本ではあまり明らかにされていなかった戦争の状況とか、もう少しはっきりしていると、もっと面白いかも。
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