ああいやだいやだ。あんな食い方だけはされたくない。どうせなら飢えを満たすがためにがつがつと食って欲しい。
「記憶の食卓」 牧野修 角川書店
いわゆる名簿屋に勤める折原は、各種会員名簿を扱い、違法すれすれの取引を行っている二十八歳。個人情報保護法ができて多少仕事はやりにくくなったが、何かいわれても、後ろ暗いことがなければ隠す情報なんてないだろうと答え、実際自分でもそう思っていた。……自分自身のプロフィールが掲載されている名簿を手にするまで。
薄っぺらなその名簿のリストには、たったの十四人しか記載がなく、しかもそのうち四人までが連続殺人事件の被害者として殺されていた。これはいったいどういう名簿なのか? どこから名簿を入手したのか思い出すこともできず、折原は同僚の高崎美也にそそのかされるようにして、名簿の他の人々に会いに行く。だが自分と彼らに共通点があるとはとても思えない。
物語は、この折原の恐怖にかられながらの探索と、遠藤悟一という少年の憂鬱とが交互に語られて進んでいく。自分が食べることも、他人が食べる姿にも嫌悪感しか抱けない遠藤にすりよってくる同級生田辺。食べることにも、誰かが食べる姿にも楽しさを感じるという田辺とは、決してわかりあえないというのに。そしてそんなある日、弟の礼二が誘拐されてしまうのだが、遠藤悟一と田辺のふたりは思いがけず犯人に急接近してしまう……
食べることが嫌いな少年、チャーハンだけが嫌いな青年、拒食症の女性、「どんな味がしたのか」と執拗に問うてくる不気味な電話。忘れてしまった昔に、謎を解く鍵はあるのだろうか? そしてそれは、思い出してもいいものなのだろうか……?
律儀でいい人の就職祝いオススメ本。終りまであと少しですよ(笑)。
食べる、という行為を、詳細に、視覚的に、描こうとすると……気持ち悪いものになるのかもしれない。美味しい、とひとことでは片付けられない生物的な感覚がそこにはある。食べること、食べられることを追求したシュールな物語。牧野ワールドが大好きなわたしにとってはおもしろかったが……万人受けするかどうかは自信がない(でもススメちゃう。だって牧野修好きなんですもん)。
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