「ではここは、不死の者たちの牢獄というわけか」
「死の王」タニス・リー(室住信子訳) ハヤカワ文庫
かつて地球が平らかなりし頃、この世をおさめる闇の君のうちひとりに死の王ウールムがいた。冷酷無比なメルの女王ナラセンはかつて己にかけられた呪いをあざむくために死の王と取引をし、死者と同衾することで子どもをなす。両性具有のその子どもシミュは運命の戯れから幼いころは妖魔エシュヴァに育てられ、のちに僧院に預けられて育つことになった。僧院でシェルと名を変えられたシミュが出会ったのが、母親の狂信的な愛情から不死の身とされたジレムである。ともに<死>と深い関わりのあったふたりは無意識のうちに魅かれあう。しかし彼らの純粋な想いとは別のところで闇の公子の思惑も動いていた。
物語はシミュが死の王の敵を自認して不死の都シミュラッドを築きあげるまでと、アズュラーンからもウールムからも拒絶されたジレムが強大な力を持つ魔術師となり、ついにはウールムの手先となってシュミラッドを滅ぼすために訪れるまでを描き出す。
闇の王と死の王との権謀術数が、不死身のジラムと両性具有のシミュ、それぞれの運命を軸に展開される。
人間にとって<不死>は楽園か。死なぬこと、傷つかぬことは恩寵か。
<死>を擬人化することで、人間と死、闇との関わりを描いた重厚な作品。英国幻想文学大賞受賞作。
これを読むとどういうわけか「知と愛」を思い出してしまうのはわたしだけなのかしらん……
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