「きっちり落とし前をつけましょう。本屋の店員たぶらかして、ただですむと思うなよって、言ってもいいですか?」
「いいよ。いい。どんどん言って。さすが気の利いたこと言うねえ。わかっているじゃない。君の使命は本屋の敵をひねり潰す。これだからね」
「晩夏に捧ぐ : 成風堂書店事件メモ(出張編)」 大崎梢 東京創元社
駅ビル六階の書店「成風堂」に勤める杏子のもとに、元成風堂書店員で、いまは故郷に帰り、地元の老舗書店に勤めている美保から助けを求める手紙が届いた。勤務先の宇都木書店、通称「まるう堂」に幽霊が出るというのだ。しかもそれは、二十七年前の殺人事件と関わりがあるという。美保が必要としているのは杏子というよりは、成風堂で過去にも名探偵ぶりを発揮したアルバイト店員の多絵。杏子は、気が進まないながらも、老舗書店を見たいという興味から、乗り気になった多絵と信州の高原へと旅に出た。限られた時間の中で、二十七年前の事件を掘り起こしていくふたりの前に現れる、それぞれにうさんくさい人々。幽霊は何のために現れたのか、そしてなぜいまになって?
書店が舞台のミステリー。図書館、ってのはあったように思うし、古本屋、ってのもあったと思うのだが、考えたら「駅ビル六階の書店」が舞台ってのは珍しいような気もする。レジのレシートから容疑者のアリバイを証明したり、なかなか興味深い話が多い。書店員だからというだけでなく、根っから本が好きで本屋が好き、という杏子が、まるう堂をじっくり見学する、その視点、見所のツボも「なるほど」と思わせてよいし、謎とき以外のところでも、本好き、本屋好きにはたまらない作品になっている。
今回は「出張編」ということで、本屋を舞台にしたミステリ……とだけは言いがたいのだが、一作目の「配達あかずきん」は、本屋そのものなのだとか。これは読まなくっちゃ! ……ということで、二作目から読んでしまいましたが、十分に楽しめました。多絵のキャラクターもいいし、かなりオススメです。