「わたしにほかの女のようになれといってるの? 男に従属して一生を送れって?」
「彼女たちはそれで幸せそうよね」
         
  「大聖堂 果てしなき世界」 ケン・フォレット(戸田裕之訳) ソフトバンク文庫

 キングズブリッジに住む騎士サー・ジェラルドの息子たち、マーティン、ラルフ兄弟は、同じくキングズブリッジの羊毛商の娘カリス、流れもので泥棒の父を持つグウェンダとともに、森の中で騎士たちが争い、殺しあう場面を目撃してしまった。さらに、兄マーティンは、弟と女の子たちが逃げてしまったあと、生きのびた騎士に頼まれ、殺しあいのもととなった手紙を土の中に埋めることを手伝い、誰にも口外しないことを誓う。そして生きのびた騎士は身を隠す場所をキングズブリッジ修道院の中に求め、修道士ブラザー・トマスとなった。
 物語は成人し、建築職人の弟子となったマーティンと恋人のカリスを中心に繰り広げられる。修道院に残されていた『ティモシーの書』を読んで建築について親方以上の知識を得たマーティンは、その知識の深さから親方のエルフリックに睨まれ、徒弟修業を無事に終えることが出来ないはめに陥る。一方、カリスは衰退する羊毛市を再興するため、父親とともに老朽化した橋の修復作業に奔走するが、そんな彼女の願いは人間として自立することであり、妻となり母となってほしいと願うマーティンの望みとは相反するものだった。女は男に従属することでしか生きられないのか。かつては医師となることを望み、いまは町のために生きたいと願うカリスの望みは無謀なのか。一方そのころ、グウェンダは片想いの相手ウルフリックが、アネットという娘をめぐって騎士見習いのラルフと争い、すべてを失ってしまったのを見守っていた。つねにウルフリックの支えとなろうと決めたグウェンダだが、そんな彼をラルフの魔の手が襲う。野心家の修道院長ゴドウィンの悪意もあり、彼らの運命はさらに翻弄されてゆく。
 「大聖堂」の子孫たちが繰り広げる新たなキングズブリッジの物語。前作を読んでいなくてももちろんかまわないが、アリエナやエリンといった力強く生きぬいた女性たちを知っていると、カリンの生き方がより一層いきいきと目に浮かんでくるような気がする。
 より高い塔、より安全な建物を建てたいと願うマーティンと、ひとりの人間として自立したいと願うカリス。強く惹かれあうふたりは、何度も結婚という道を選択し、それに近づきながらも、離れてゆく。しかし、結婚はただ男性に従属するだけのことなのか? ウルフリックと結婚したグウェンダの姿が同時に描かれていることは、何らかの意図があるのではないかと思う。
 登場人物一人一人がいきいきと描かれ、前作「大聖堂」に負けない作品となっている。上・中・下は苦になりません。絶対のオススメ。



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