ウォルターはぼくをひきよせた。笑顔はなかった。
「きみはわ、わかってない、トミー。きみは特別に大切なんだ。あの子たちにはわかってる。きみにはビュ、ビューティがある。ビューティがなかったら、あの子たちが生き延びるみこみもないんだ。きみがし、死んだら、あの子たちも死ぬんだよ」
       
 「シルバーチャイルドV 目覚めよ! 小さき戦士たち」 クリフ・マクニッシュ(金原瑞人・中村浩美訳) 理論社

 コールドハーバー。かつてはぬかるみとゴミ捨て場だった場所に、まず最初、トマスがやってきた。それから、特別な子供たちがやってきて、そのあと、世界じゅうの子供たちがやってきた。そしていま、ジェニーに呼ばれて、世界じゅうの鳥や魚、けものたちがやってきている。巨大な身体で子供たちを守ってくれるシルバーチャイルド、ミロの翼のもとへ。
 宇宙からの怪物ロアはもうすでにそこまでやってきていた。戦いは目前。だが、特別な子供たちでさえ、どうしたらロアを倒せるのかわからず、自らの死を覚悟しながら日々を過ごしていた。トマスにとって日々は焦りの連続だ。自分のビューティで守り手が生み出せるはずなのに、肝心のビューティの受け手がいない。さらに、ロアの心をさぐったヘレンとトマスのビューティの助けを借りて兵器と化すミロの妹ジェニーだが、ロアがヘレンに与えたのはいつわりの情報だとわかり、何度もビューティが無駄に失われてしまう。<プロテクター>さえ本当の味方なのかどうかわからなくなってしまった。子供たちはほんとうに地球を救うことができるのか?
 焦り。無力感。疑い。ロアとの闘いの中で消耗してゆく子供たち。けれど、死を覚悟して、子供たちは成長してゆく。自分の命を失っても、それよりももっともっと守りたい人がいる、守りたい未来があるから。
 特別な子供たちの変化は、決して美しいものではない。シルバーチャイルドになったミロにしても、もう二度と地球上でふつうの少年としては暮らせない。クモのように這いまわる双子、巨大な身体のウォルター、手がドリルのようになってしまったタンニ。けれど、もとの姿といまの姿、どちらを選ぶかと問われたときに、子供たちが出した答えは胸がふるえるほどに力強い。
 一巻目よりも二巻目、二巻目よりも三巻目のほうが大きな感動に包まれる。最終巻の三巻目まで、いっきに読めるはず。絶対のオススメです。




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