「もっとあげられるものがあったなら」フリーダはやさしくミロにつぶやいた。「それをあげるのに」
「もっとあげられるものがあったなら」エミリーもいった。「それで彼を愛すのに」
「シルバーチャイルドT : ミロと6人の守り手」 クリフ・マクニッシュ(金原瑞人訳) 理論社
日曜日の昼食どき、ミロはとつぜん、だれにも真似できないほど食べはじめた。ずらりと並んだおいしそうなごちそうを、次々に口の中にほうりこむ。スプーンを使うのももどかしく、ボウルごと持ち上げて口の中に流し込む。手あたりしだいにつかみとって、手づかみで食べる。……そして、ミロの身体は変化した。まぶたがなくなり、髪の毛がごっそりぬけ、からだ中が金色の皮膚でおおわれた。熱を持ったように熱い。
そのころ、コールドハーバーと呼ばれる古く荒れ果てた土地で、子どもたちが何人も暮らしていた。トマスも、ある日とつぜん家を飛び出てきてしまったひとりだ。ゴミの中から食べ物をあさり、倉庫の中で眠る。いつものように食べ物を探しにゴミ捨て場に来たトマスが見たのは、クモのように手足で地面をはいまわる双子、フリーダとエミリー。彼女たちと出会ったことで、トマスは癒しの力、ビューティが自分の中にあることを知る。その後、トマスの望みではないのに、その後、巨人のウォルターまで加わって、彼らは奇妙な家族となる。風の唸りのような不気味な声<ロア>とはいったい何なのか。そして、彼らはどうして奇妙な力を身につけたのか。
三人称であるミロの部分と、一人称のトマス、のちにさらに一人称のヘレンの部分から構成される。トマスは癒しの力ビューティをもっているが、だからといって無条件にやさしい心をもつウォルターや、聖女のようにふるまうフリーダやエミリーとは違う。双子のこともウォルターのことも見た目で判断して「あっちへいけよ!」と追い払うし、なかなか他人を信用しようともしない。変化がすすみ、自力では動けなくなったミロが自分のビューティを吸い取って、逆に自分が衰弱していくことに恐怖と怒りを感じてしまう。……そう、トマスはなんとも感情移入のしやすい男の子なのだ。異常な事態に順応しきれずに泣きわめき、なのに大抵の時間は日々の生活に流され。
「シルバーチャイルド」1巻め、ということで、<ロア>との闘いはこれから。この巻ではようやく「ミロと6人の守り手」が集合しただけである。今後どうなっていくのか楽しみなお話。
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