<彼は何者? 味方、それとも敵?>
真理計は答えた。<人殺しだ>

                 「神秘の探剣 ライラの冒険U」 フィリップ・プルマン(大久保寛訳) 新潮文庫


 12歳のウィル・パリーは、幼いときから母親とふたり暮し。目に見えない何者かに怯える母を支えて生活してきた。だが、幼いときに行方不明になった父を追うものは、確かに存在していたのだ。そしてある日、ウィルは自宅を荒らしていた男たちともみ合いになり、相手を殺してしまう。警察に追われる身となったウィルは、思いがけなく目にした別世界の入口を通って、子どもしかいないチッタカーゼという世界にたどりつく。そこには、やはり違う世界からやってきた少女、ライラがいた。
 前作、「黄金の羅針盤」で、オーロラの中に現れた世界に向かったライラが、新しい登場人物と出会う。スペクターという魔物に魂を食べられてしまう大人たちと、否応なく孤児となってしまった子どもたちが住むこの世界で、ウィルは神秘の短剣を手に入れ、ライラは大切な真理計を盗まれてしまう。
 "ダスト"とはいったい何か、前作に引き続いて謎めいた動きをみせるコールター夫人とアスリエル卿、彼らはライラたちの味方なのか、敵なのか?  新たな登場人物も増え、物語はさらに拡大。っていうか、あまりに大きくなりすぎて、いったいどういうラストになるのか別の意味でもどきどきしてしまうほどである。
 登場人物がみな悪者、のパターンどおり、ウィルも決して「いい子」ではない。やられたらやり返すし、やり返すときには、相手が二度と向かってこないようにこてんぱんにやっつける。ときには相手を殺すこともいとわない。ただ、前作とは違って、ウィルがそう考えるにはそう考えるなりの理由があるし、名に考えてるんだか分からない悪いやつ、ではないので、物語には入り込みやすいような気もする。
 ただ、なんていうか……ライラがいきなり「女の子」になっちゃうのもなあ……。ストーリーより、登場人物の性格に対する好みで、この本への評価はわかれそうである。




「黄金の羅針盤 ライラの冒険T 」
「琥珀の望遠鏡 ライラの冒険V」
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