中山可穂は台詞や設定がむちゃくちゃうまい。

今回のオススメシーンといえば、これしかないでしょう。
雑誌の取材に来た木内雅野とミチルさんとの会話。ミチルさんの作ったうんと濃いギムレットを半分ほど飲み干した雅野がこんなことをいって、会話は始まる。

「カクテルの腕前はまだまだねえ。芝居よりは上手だけど、キスよるは劣るわ。で、他にはどんなことが出来るの?」
「そうですね……ドイツ語で野ばらを歌えるし、トウシューズをはいてピルエットが出来るし、おみそ汁だってつくれます。それからグレン・グールドふうにショパンの別れの曲を弾けます。ヴィスコンティの撮った映画のタイトルは全部言えるし、マウンテンバイクにだって乗れるし、トルコにおける由緒正しいセックスの仕方も知っています。トルコ式セックスはイスタンブールで知り合ったアーモンド色の瞳をした美少女に教わったんです」

 そして、敵もさるもの、なのだ。

「木内さんの話もしてよ。記事を書くことの他には何が出来るの?」
「そうねえ……フランス語でラ・マルセイエーズが歌えるわ。ピルエットは出来ないけど日舞ならこれでも西川流の名取よ。得意料理はピロシキとパエリヤで、アップルパイも人様に自慢できるかな。アシュケナージふうにキラキラ星変奏曲が弾けるし、タルコフスキーの撮った映画のタイトルは全部言えるし、サーフィンもできるわ。ネパールにおける由緒正しいフェラチオのやり方だって知ってる。もちろん、カトマンズで知り合った黒い瞳の美少年に教わったのよ」


 これをスゴイ、と思ったひとは、中山可穂を読んでみるべきである。


「猫背の王子」
「天使の骨」
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