「ごめんなさい。わたし、あなたを愛することはできる。あなたのために、あなたとともに嘆くこともできるわ。あなたの痛みをわかちあうこともできる。でも、あなたを裁くことなんかできない」
          
「名誉のかけら」L.M.ビジョルド(小木曽絢子訳) 創元SF文庫

 ベータ星の女性艦長コーデリア・ネイスミスは、新発見の惑星を探査中、見知らぬ敵に襲撃される。部下のひとりは死亡、神経銃にやられたもうひとりの部下とふたりきりで取り残されたコーデリアを捕虜にしたのは、バラヤー人の士官だった。アラール・ヴォルコシガン。野蛮なバラヤーの中でも、最も危険だとされる男。しかし、補給所に向けて200キロの道のりを彼とともにするうちに、コーデリアにはアラールの真実の姿が見えてくる。それは権力を拒み、戦士階級であるヴォルであることの誇りよりも、己自身に忠実にあろうとした名誉ある男の姿だった。いつしかふたりは惹かれあうが、コーデリアはアラールの元を去らなければならない運命にあった。そして、数年後の再会がもたらしたものは――
 マイルズ・シリーズの前段にあたる、マイルズの両親の若かりし頃のお話。基本的にシリーズは代表作だけをオススメして、あとは放っておくことにしているのだが、これはまたちょっと違う感じがするので(たんに好きだからだっていう話も)書いてしまう。
 饒舌で頭の回転が速く(時には速過ぎるほど)パワフルなマイルズは、コーデリアの血を多く引いているのだろうと思われるが、これを読んでいると、アラールもやっぱりマイルズの父親だよな、と思わせるようなことをやっている。のちにマイルズを苦しめる(のか、彼に苦しめられるのか)イリヤンやコウデルカの若かりしころの姿なども楽しめておもしろい。とはいえ、これはそもそもが処女作なので、「戦士志願」などを読んでいなくても大丈夫。もちろん、充分に話が通じる。マイルズが産まれるのだからふたりはいつか結ばれるのだろう、とは思うのだが、試練やら障害が山積みになっていて、いったい大丈夫なのかこのふたり、と思わせるところも見事。とりあえず、市民はすべて平等であり、売春婦でさえセックスカウンセラーという名で大学卒業生がなっているような惑星出身のコーデリアと、貧しい地域には通信リンクなどなくてあたり前、身分差のくっきりした社会で皇帝に最も近い血縁として生きるアラールとの出会いは、異なる文化の衝突と融合だともいえる。そのあたりも楽しみどころのひとつ。
 キャラクターでいえば、なんといってもボサリ軍曹がピカ一。アラールを憎しみつつ忠誠を誓っているような、精神異常者ぎりぎりの姿の描き方は秀逸。なお、のちにあちこちで散見できる「秘密の大スキャンダル」、アラールのかつての恋人ジェス・ヴォルラトイェルも登場。お見逃しなく(笑)。



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