心の中にある、灯火のようなものは消えないのだ。男女や夫婦や家族といった言葉を超えて、ただなんとなく、大事だと感じる気持ち。とても低温だがしぶとく持続する、静かな祈りにも似た境地。
                 
「まほろ駅前番外地」 三浦しをん  文藝春秋

 まほろ駅前多田便利軒の多田啓介は、相変わらず、庭仕事のかたわら横中バスの間引き運行を調べたり、汚い部屋の掃除をしたり、インフルエンザの母親の代わりに子どもの面倒をみたりしている。だが、変わったのは、そんな風に仕事を通じてだけかかわっていた人々と、ひとりの人と人として、ふれあうようになったことかもしれなかった。
 前作、「まほろ駅前多田便利軒」では、多田の視点からしか描かれるのことのなかった星、曽根田のばあちゃん、由良公、岡夫人などから見た、多田と行天。ちょっと変わったやつと、すごく変わったやつの組み合わせは、いったいどんな風に見えるのか……――
 まさかの星と母親との会話やら、曽根田のばあちゃんの過去の恋愛話など、これまでわき役だった人たちが主役になる瞬間もよい。いやあ、曽根田のばあちゃんには驚かされます(しかも、過去の登場人物を行天と多田の名前で回想するあたり、このばあちゃん、ただものではありません)。
 いろんな理由で傷ついた人たちが、生活の中で傷を癒してゆく姿。淡々とした日常が描かれているように見えて、ふとした描写が鮮明でせつない。
 最終話で行天の過去にふれられ、今後もこの話が続いていきそうな余韻も残す。前作のファンはぜひ。そして、前作を読んでいない人は、ぜひ「まほろ駅前多田便利軒」からどうぞ。




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