「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる」
「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん 文藝春秋社
東京と神奈川の県境に位置するまほろ市で便利屋を営む多田は、正月のある仕事帰り、高校時代のクラスメート、行天と再会した。高校三年間でただ一度しか言葉を発しなかった行天は、あきれるほどおしゃべりで、素足に健康サンダルという寒空の下ではあり得ない格好の変な男になっていた。悪い予感どおり、行き場所のないという行天とともに事務所で暮らす羽目になった多田。チワワの飼い主を探したり、小学生を塾へ迎えに行ったり、仕事そのものはたいして変わったものとも思えないのに、それがとんでもないことになってゆくのは変人、行天のせいなのか、それとも……?
行天の抱える闇。そして多田が行天に対して抱く後ろめたさ、そして誰にも語ることのない過去。家族や愛する者を喪い、あるいは手に入れることのなかった者たちが、寄り添って生きてゆく。生きている限り、幸福になるチャンスはあるのだから。
連作短編集。とにかく、行天のキャラとか、多田と行天の関係を受け入れられるかどうかでこの物語を好きか嫌いか大きく分かれるような気がする。文章は読みやすいので、すらすら読めることは請け合い。便利屋としての一年が過ぎていく中で、さまざまな出来事が起こり、行天や多田の過去が語られてゆくことになっている。
第135回直木賞受賞作。ライトノベルしか読んだことのないような人でも読めると思う。
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