地球上で最後に残った男が、ただひとり部屋のなかにすわっていた。すると、ドアにノックの音が……。
「ノック」(「さあ、気ちがいになりなさい」所収) フレドリック・ブラウン(星新一訳) 早川書房
わずか二つの文で書かれたとてもスマートな怪談である。なにものがノックをしたのか。わけのわからない恐怖がおそってくる。しかし、この物語では
「実際のところは、恐怖にみちたものではなかったのである」
ということで、地球上で最後に残った男がノックを耳にする話が語られる。
さて、そのノックはいったい……?
短編集。就職祝いにバーバままさまからご紹介いただいた一冊。
表題作「さあ、気ちがいになりなさい」は、とんでもない話である。1796年、眠りについたナポレオンは、目がさめたら1944年、ジョージ・バインという青年の体の中に転移していた。しばらく黙って記憶喪失になったジョージのふりをして生活していたが、ある日、潜入取材を理由に精神病院に入院させられることになる。それも、自分をナポレオンだと思い込んでいる偏執狂患者として。さて、ジョージ(またはナポレオン)は病院の外に出られるのか?
ブラウンのとんでもなさ、といのはアイデアとオチの見事さにあるといっていい。まさか……! と思うオチにしてやられるし、あまりにとんでもなくばかばかしいアイデアに笑ってしまうこともある。
ナンセンスギャグから、ちょっとせつない話まで。ブラウンの魅力がぎゅうっと詰まった一冊。必読です。
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