「次のせんたくもの、洗わないでほしいんだ」
     
 「グッドバイからはじめよう」(「切れない糸」所収)坂木司 創元社

 俺、新井和也、22歳。就職できずにいたところに父親が亡くなり、自分でも思いもかけないことから実家のクリーニング屋を継ぐことになった。といっても、アイロンかけはプロ級のシゲさんがいるし、会計その他は以前から母親の仕事。和也の仕事はもっぱら外回りで……そして、お客さんの中にはちょっと変わった人たちがいる。
 日常の中にひそむささやかなミステリ。クレーム客から、とつぜん手の平を返したようになれなれしい存在になった男親と、その息子の雅史くん。そしてある日、雅史くんから、「次のせんたくもの、洗わないでほしいんだ」と頼まれてしまった和也。依頼主は父親だ。といって、子どもとの約束をただ破るだけでは申し訳ない。そして、悩みを抱えたままむかったのは『喫茶ロッキー』。そこには大学時代からの友人である沢田がいて、いつでも和也の抱えた謎にあざやかな解答をしめしてくれるのだった……――
 短編集。
 クリーニング屋が中心に据えられていることで、若い女の子の服装への悩み、商店街でのやりとり、服にまつわる思い出……など、身近でありながらふと見過しがちな部分に謎が秘められていて興味深い。しかも、謎を解くごとに、和也もまた、クリーニング屋の跡継ぎとして成長を遂げていく様子なのが頼もしくもある。
 えーっと。ホンネをいってしまえば、「青空の卵」は我慢できない人でも、和也と沢田ならまだマシかと。このふたりもいい加減、"きもピュア(cくらさん)"ですが、背筋がそそけ立つようなシーンは少ない。坂木司がはじめてだ、という人は、まずはこっちから先に読むことをススメます。これでもダメだと思う人は、ひきこもり探偵シリーズはもっとダメだと思います。ミステリとしてはいいネタが多いと思うんですけどね……主人公のどっちかを女にするとか、両方を女にするとかできなかったのか。と思ってしまいます(苦笑)。まあ、一度ぜひお読みください。感想などお聞きしたいものです。



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