「気になさらずに。醜いものが美しいものを暴力で屈服させるのは、この世で最悪の冒とく行為です。彼らは天の罰を受けたにすぎません」
「吸血鬼ハンター"D"」菊池秀行 ソノラマ文庫
西暦12090年。究極の科学技術に支えられた完全自動管制都市『都』を中心に、超高層ハイウエイが縦横に走り、気象コントローラーによって気象が制御されている時代。巨大な宇宙港も存在し、恒星旅行も夢ではない――が、実際には荒れ果てた都市にしがみつく人類と、彼らを支配する「貴族」たちによって、世界は中世そのものの様相を呈している。「貴族」――吸血鬼たちは自分たちの超科学と魔法を駆使し、自らの配下に人狼、虎男、蛇人間、屍肉食いたちをおき、恐怖に怯える人間たちを隷属させていたのだ。しかし、人間たちの中にもこれに立ち向こうとする勇気ある人々がいた。そして狩人の中でも最も優秀な者、それが吸血鬼ハンターである。
物語は"貴族の口づけ"を受けた少女ドリスが、街道で己を救ってくれるハンターを探しているところから始まる。彼女の前に現れたのは十七、八歳にしか見えぬような美しい青年。しかし彼は吸血鬼と人間のハーフ、バンピールであり、その能力を最大限に生かした最も優れた吸血鬼ハンターであったのだ。ドリスに執着する貴族、伯爵との攻防。そしてまた、人を人とも思わぬ強盗団の首領、麗銀星まで加わり、正邪入り乱れた死闘が繰り広げられる――
ううむ、ついにオススメ文を書くことにしてしまいました、吸血鬼ハンターD。主人公がシャイで無口でタフな美青年という設定はなかなかいいのですが、周辺人物が(例えば今回引用してしまったような台詞を口にする麗銀星とか)こそばゆくなるほどに気障ったらしい。突っ込みどころも満載で(そもそも「D」の名前の由来なんかは下手したら転げまわって笑っちゃうし、西暦が12000年以上続くって考えるかな? とか……)、だから、「Dのシリーズだあい好き」とハートマークつきで口にする少年少女たちの前で、わたしはいつも口を閉ざしてきた。が、改めて考えてみると、その突っ込みどころが満載で気障ったらしいところがいいんじゃないか!? と思えたのであります。しかも、読者をぐいぐい引っ張るパワーもある。問題はシリーズ全部を通して読もうとするとやたら長いことなんですが(クラジョウよりも長い)、生まれて初めて長いシリーズに挑戦しよう、なんて考えている少年少女にはオススメかもしれません。そう思えるだけ、わたしも年をとったってことなのでしょうか……
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