「それなら、千反田。何か状況を一つ出してみろ。そう簡単に理屈をくっつけるなんてできないと、証明してやる」
「心あたりのある者は」(「遠まわりする雛」所収) 米澤穂信 角川書店
十一月のはじめ、古典部の部室には「俺」、折木奉太郎と千反田えるのふたりだけ。そんな折『氷菓』事件を妙に誉めそやした千反田に、俺は憤然と文句を言った。
「『理屈と膏薬はどこにでもくっつく』。たまたま膏薬がうまいところにくっついたとしても、そんなのは知ったことじゃない」と。
そこで、たまたま聞こえてきた校内放送に理屈をくっつけることができるかどうかを賭けるのだが……――
できる限りエネルギーを使わないことをモットーとする省エネ高校生の折木ホータローと、その他ユニークな古典部の面々を中心に据えた連作短編集。「氷菓」 「愚者のエンドロール」ときたのだから、これは古典部のその後を描いたのかと思っていたらさにあらず。むしろ氷菓前後の折木や千反田える、里志、伊原といった面々のにぎやかな姿から描かれているところが注目。
いつもいつも「わたし、気になります」というひとことで省エネを返上することになってしまうホータローだが、それがどうしてか……なんてことは考えるまでもなく。シリーズ内ではもっとも恋愛色の強い作品に仕上がっているかもしれない。なにせネタは合宿に年賀にバレンタイン、雛祭りだ。気楽に読める作品。
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