「因果律はすべての事象が明らかになった時にはあるべき場所に還っていくものなのね」
「ジーン・ワルツ」 海堂尊 新潮社
東京帝華大学の産婦人科医、曾根崎理恵、32歳。顕微鏡下の神の手を持つ彼女は人工授精のエキスパートであるが、地域医療の現場は崩壊しつつあり、理恵がサポートしているマリアクリニックはいまや五人の妊婦を抱えるだけとなっていた。十九歳のユミを筆頭にした自然妊娠の三人と、双子であることが判明した五十五歳の山咲みどり、長年の不妊治療が功を奏した三十九歳の荒木浩子の人工授精による妊婦ふたり。計五人、それぞれに事情を抱えた妊婦たちを診察する理恵だが、彼女には誰にも告げず秘していることがあった。
代理母――。理恵が代理母出産に手を貸しているのではないかという疑いを抱いた先輩医師清川だが、なぜ彼女がそのようなことをしたのか、その理由を突きとめることも、徹底的な証拠をつかむこともできずにいた。そんな中、理恵は医学生相手に過激な授業を展開し、また、夫である伸一郎との離婚にも踏み切るなど、プライベートな面でも変化を迎えようとしていた。理恵のむかう先はどこなのか、そして、生まれてくる子どもたちはいったい誰の子どもなのか――
「バチスタ」シリーズや「医学のたまご」のような明るさのかけらもない、切迫感の痛々しさが全面に出てくるような物語。近頃ニュースで取り上げられることも増えているが、やはり産婦人科医の抱える問題点や苦しみは切実なのだと思う。それでも、登場人物のひとりである青木ユミが徐々に母親としての自覚を得ていくように、生命を育むことはひとつの神秘であり、大切にしなければならないことだ。それを支える医療を失わないよう、わたしたちにできることを考える必要もあるだろう。
さて、曾根崎伸一郎といえば「医学のたまご」の薫くんのお父さんなわけで、つまりは理恵は薫くんのお母さん、ということになる。こう考えるとすべての話がつながっているのだなあと思うが……つながりすぎのような気も(笑)。
オススメ本リストへ