「タモンは何からも自由に見える――国籍からも、階級からも、ジェンダーからも」
「夜明けのガスパール」(「不連続の世界」所収)恩田陸 幻冬舎
夜行列車に乗って怪談話をしながら高松まで行きさぬきうどんを食べよう、という企画にのった四人の男たち。互いに忙しい生活の中、翌日にはうどんを食べて飛行機で東京に戻ってくるなんていう酔狂な連中の中に、塚崎多聞はいた。聞き上手なのは「穴」のようだからといわれることもあり、不思議を引き寄せるのではないかといわれることもある、彼。それまでにもいくつかの不思議な事件にめぐりあっていた彼の、いま一番の不思議は――一年ほど前に、突然里帰りをしてしまい、迎えにいっても会えることなく姿を消した妻のジャンヌだった。ただ、まったく連絡が取れないわけではなく、最近になってぽつんぽつんと写真だけが送られてくる。ジャンヌは何を考えてこんなことをしているのだろう? 数日前からかかってくるようになった無言電話も、やはりジャンヌに関係があるのだろうか。訝しがる多聞に、彼らはいう。
「俺さ、もう、おまえの奥さんはこの世にいないんじゃないかと思う」
「おまえが殺したからだ」
――短編集。
「月の裏側」に登場した塚崎多聞がかかわる物語がいくつか収められている。この世界に属さない、パッセンジャーだ、といわれる多聞は、その性質ゆえに女性からも男性からも、さほど親しくない相手からもさまざまな話を聞かされ、ときには理屈では解き明かしようのない不思議と出会う。
ミステリ的なオチとしてすっきりしていて後味もよいのは「幻影キネマ」だと思うのだが、酔狂な男たちのおしゃべり小説「夜明けのガスパール」もよかった。すらすら読めると思う。
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