もしかすると戦争は、人間性と不可分の産物なのかもしれない。戦争を無くしたら、人間は人間以外のなにかになってしまうのではないか。
「終わりなき平和」 ジョー・ホールドマン(中原尚哉訳) 創元SF文庫
神経接続による遠隔歩兵戦闘が日常化した、連合軍対ングミ軍。この戦いは思想戦争であり、人種戦争でもある。主人公の黒人兵士ジュリアン・クラスは、この戦争の中では白人側につく黒人兵士として存在している。そしてまた、一方では彼は大学の教官として、知的な黒人としても存在しているのだ。
ジュリアンのような、ソルジャーボーイと呼ばれる機械歩兵を操る「機械士」たちは、後頭部にジャックを差込み、精神移入を行うことで10人の男女の精神が繋がりあって生きている。感情の襞の何ひとつも隠せず、どんな恋人同士よりも深い関係にある機械士たちの精神移入に嫉妬する、ジュリアンの恋人アメリア。だがジュリアンは戦闘に倦み、やがて顕著な自殺傾向を示すようにもなってくる。戦士としての彼ではなく、物理学者の彼が知った恐るべき実験。そして物語は宇宙の運命をかけた攻防へと変化してゆく。
「終わりなき戦い」の続編ではない。なにせこの小説は、闘いにつぐ闘いという前作とは異なり、遠隔操作の戦争を描いたものだし、ジュリアンは戦闘の合間にはいたって文人的な生活を送っている。なぜ闘っているのだろう、どうして人を殺さなければならないのだろう、というジュリアンの苦悶も、前作にはなかったものだ。けれど、最終的には――同じようなものなのだろうか、とも思えてくる。表現形式こそ異なるが。
それにしても。この小説の最後に出てくる地球の姿は……ほんとうに「平和」なのだろうか。解説には、このように書かれている。
「"個"というものに対する誇りやこだわりと、その重みの苦しさ煩わしさをどのように受け止めるかによって、国民性の違いや、性差、年齢差などが意外とはっきり出てしまうかもしれない」
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・キャンベル賞受賞作品。
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