「ご、ごめんなさい、ついカッとしてしまって」
 頬を手で抑えたまま、白鳥は言う。
「気にしないで下さい。僕の周りでは、比較的よくあることですから」

                 「ナイチンゲールの沈黙」 海堂尊 宝島社


 東城大学医学部付属病院、ICUに勤務する如月翔子と小児科病棟に勤務する浜田小夜のふたりは、ともにオレンジ新棟に勤務する仲のよい看護師。忘年会の夜、街に出たふたりはそこで迦陵頻伽の異名を持つ歌姫、水落冴子と出会う。伝説の歌姫との出会いは、小夜に思いもかけない世界を見せることとなった。だが、一方で仕事は続く。自分が担当しているふたりの子ども、網膜芽腫という癌によって眼球摘出を目前にした子どもたちのメンタルサポートに悩んでいた小夜に、師長の猫田は子どもたちを通称愚痴外来の田口のもとに行かせることを提案した。そして子どもが苦手という田口のもとで開かれることとなった小児愚痴外来だが、大人びた中学生牧村瑞人の心をひらかせられないまま、ある日、瑞人の父親が殺され、バラバラに解剖されるという事件が。介入して来る刑事たちと、なぜか白鳥。相変わらずのロジカル・モンスターぶりで子ども相手にも容赦なく無差別攻撃をしかける白鳥は、それでもあっというまにその場を取り仕切る力量を見せつけ、田口を圧倒する。疑われる小夜と瑞人。アリバイは崩せるのか。そしてなぜ瑞人の父親はばらばらにされねばならなかったのか……
 「チーム・バチスタの栄光」その後。相変わらずの田口と白鳥だが、この話、実はこの後の「螺鈿迷宮」「ジェネラル・ルージュの凱旋」とも絡む多層構造の物語の一つという位置づけになっている。ので、これだけを読んでも面白いのだが、他の本を読むとさらに面白味が増す……という洒落たつくり。
 どちらかというと落ちこぼれ医者の田口だが、今回は「がんがんトンネル魔神」島津や「ジェネラル・ルージュ」速水など、優秀な上に個性的なかつての同級生が登場して、それでもなおひけをとらないのだからじゅうぶんに魅力的だといえよう。登場人物一人一人が丁寧に描かれていて、病院の忙しさとかもよく見えてくる。「チーム・ バチスタ」以上にオススメできる本。



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