「ロアーナ、わたし、あの人の望むものはすべてあげてるわ! 地球人は恋人を奴隷のように思いのままにしようなんて思わないのよ!」
「けれどもね――ジュエル、怒らないでね――わたしからすれば、<自由な伴侶>が男の人にしてあげられることなんて売春婦と変わりないように思えるの」
                  
「ヘラーズの冬」 マリオン・ジマー・ブラッドリー(氷川玲子・宇井千史訳) 創元推理文庫 ダーコーヴァ年代記14

 地球帝国諜報員マグダ・ローン。幼い日々をダーコーヴァで過ごし、いまでは重宝部員としてダーコーヴァで暮らしながら、ふたつの文化の狭間で悩むこともある女性。彼女の元夫、やはりダーコーヴァで生まれ育ち、同僚でもあるピーターが行方不明になった。どうやら、アーデス家長男キリルと間違われ、ヘラーズの山賊ル・マルの人質となったらしい。キリルの母親であり、アーデス家の実質的な家長でもあるロアーナの助けを受け、マグダはフリー・アマゾンになりすまして旅をする。だが、思いがけずある宿でフリー・アマゾンの一行と同宿するはめになってしまった・・・・・・! はたしてマグダはピーターを救い出すことができるのか。
 もともと「砕けた鎖」として出版され、日本ではその第一部が「ドライ・タウンの虜囚」、第二部がこの「ヘラーズの冬」となっている。注目すべきは前作より十二年が経過し、かつて自分は夫のために子どもを産む機械でしかないのか、などと悩んでいたロアーナが、夫に代わって実質的なアーデス家の当主となっていること。ディ・カテナス――法、誓いで縛られた婚姻の中に自らの生き方を探したロアーナにとって、自分たちが望むときだけをともに過ごす<自由な伴侶>としての結婚がどう見えるのか。理想的な愛のかたちなどというものがあるのか。ロアーナとジュエルのやりとりは必見。
 男性読者に「過激なフェミニズムと男性憎悪の産物」と激しく非難される一方で、過激なフェミニストたちに「男性優位社会を是認している」と批判される一面も持つのは、ブラッドリーならではの、そしてダーコーヴァならではの複雑さゆえ。文化の違い、考え方の違いを乗り越えてたどり着く場所はあるのか。さまざまな意見はあるだろうが、魅力的な物語であることは間違いない。



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