「お前が拘らなすぎるんだよ。もうちっと真剣に、剣道のこと考えろよ。勝敗に拘れよ」
「私はいつだって真剣にやってます。剣道についてだって、いっぱい、いろいろ考えてます」
「だったら格下に負けんなよ。そんなの、手ぇ抜いてる証拠だろ」
「武士道シックスティーン」 誉田哲也 文藝春秋社
剣道を兵法と心得る磯山香織は、己の前に立ちはだかるものはすべて斬る、その勢いで剣道を続けてきた。そんな香織が、唯一、納得のできない負け方をしたのは、秋の横浜市民大会の三回戦目、絶対に負けるはずのないと思っていた相手にあっさりとやられたときだけだった。東松学園女子の甲本。年下なのか年上なのかさえわからない、その相手とふたたび戦うために、香織は東松学園女子高校に推薦進学する。
一方、だらしのない父親のせいで両親がプチ離婚、金のかかる日舞を続けられなくなったので剣道を始めた西荻早苗、旧姓甲本。父親の生き方を見てきたせいなのか、勝ち負けに拘ることがどうしてもできず、それでも自分なりに剣道が好きで続けているが、入学早々、喧嘩腰の磯山香織に因縁をつけられ、防具をつけないまま竹刀で殴られるなど、ひどい目にあう。それでも早苗はどうしても香織のことを嫌いにはなれなかった。ひたむきに、ただひたすらに剣道に打ち込む香織の姿、兵法というのは時代錯誤なような気もするが、その熱意に魅かれる部分も多かったからだ。
物語は、剛の香織(言葉づかいから何から、すべてが「兵法者」)と柔の早苗(香織いわくの「お気楽不動心」)の交互の一人称で語られる。反発と、つながりと。特に物語中盤、香織が己の剣道に迷いを持ち、何のために勝つのか、勝つことによって何が得られるのか――と悩み苦しむあたりからのスピード感もよい。
部活動に夢中になる高校生、しかも異なるタイプふたりの青春を描いているという意味では、「BOX!」に通じるものもある。剣道部員は必読。剣道部以外でも、部活に夢中になっている人、夢中になるものがなくて悩んでいる人、誰もが楽しめる小説だと思う。とにかくオススメ。
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