――カブちゃんは太陽みたいなものだ、と優紀は思った。
 永久に届かないが、永久の憧れだ。
   
    「Box! (ボックス!)」 百田尚樹  太田出版

 恵美須高校で英語を教える高津耀子は、ある日、電車の中で喫煙している高校生に絡まれているところを、風のように現れた少年に救われた。実はその少年は、恵美須高校の体育科に所属するボクシング部の鏑矢だった。助けてくれた礼をいおうと思っていた耀子は鏑矢のあまりに低俗な子どもっぽいふるまいに呆れはててしまうが、それでも、鏑矢の幼なじみで特進クラスに所属する木樽に誘われて観に行ったボクシングの試合では、鏑矢の天才的なボクシングセンスに圧倒される。そして、あこがれの耀子が鏑矢の強さを認めていることを知った木樽も、弱々しくいじめられっ子の自分を変えるためということもあって、ボクシング部に入部。天才的なセンスを持つ鏑矢と、そんな彼に少しでも近づこうと地道な努力を欠かさない木樽。当初、果てしない差があると思われたふたりだったが、己の才能を誇るあまりに練習をさぼりがちな鏑矢と、愚直なまでに基礎的なトレーニングを繰り返す木樽との間は、徐々に縮まり始めていた。そして……――
 鏑矢と木樽。対照的なふたりが過ごした、精神的にも肉体的にも著しい成長を遂げる高校一年生という季節。主人公ふたりももちろんだが、周囲の登場人物たちもよい。木樽と同じ特進クラスに所属し、学年トップの成績を誇りながら、鏑矢にあこがれ、それを隠そうともせずに応援するマネージャーの丸野。将来を期待された無敵の王者、ライバル高の稲村。監督や部員たちなど、鏑矢と木樽を囲む人々も多彩な顔ぶれで、彼らがボクシングに打ち込む姿勢がびしばし伝わってくる。
 ボクシングのことなどまるで知らない耀子と木樽が、ひとりは顧問として、ひとりは部員として、ボクシングについて学んでいく形式を取っているため、読み手も特にボクシングについて知らなくても、すらすら読んでいくことができし、いつしか、彼らと同じように熱くなっていることに気づく。宿命的な最後の試合まで目が離せない。
 2009年度本屋大賞ノミネート作品。映画化決定。熱い青春小説が好きな人に、ぜひオススメ。




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