「それは呪いなんだよ。今になってみれば、よくわかる。呪いなんだ。だから……」
「ALONE TOGETHER」本多孝好 双葉文庫
三年前に医学部を自主退学し、いまは不登校の生徒を集めた塾でアルバイトをしている「僕」、柳瀬は、以来、まったく会うこともなかった教授の呼び出しに応えて出向き、そこである一人の少女を守ってほしい……という依頼を受ける。それは、教授が安楽死させ、現在ニュースで騒がれている事件の被害者の娘だった。
立花サクラ。塾に通うミカの助けを借りて、立花サクラとの接触を試みる柳瀬だが、年齢よりも大人びた風のサクラは柳瀬の同情を嫌い、容易に心を開こうとはしない。そしてなぜか、サクラには柳瀬の持つ「呪い」、不可思議な能力も通じないようであった……
他人の感情とシンクロし、本人が秘密にしておきたい心の奥底を話させる能力を持つ柳瀬。本来ならば他人には見せないはずの心の秘密、隠された部分を知ってしまうがゆえに、他人と親しむことができずに孤独になってしまう。物語は、柳瀬の視点からひっそりと静かに語られてゆく。
いたいたしい物語、だといっていいかもしれない。考えてみたら、柳瀬の持つ共感能力は、マキャフリイが描くところのものとよく似ている。ただし、アメリカ人が書けば暴走すると危険なものではあっても、コントロールできれば人の役に立つ、非常にポジティブな能力であったはずだ。しかし、柳瀬にとっては「呪い」でしかない。
一緒にいるけど、一人。とはいえ、さびしさを乗り越えた先にあるものの力も、この本は教えてくれるような気もする。「MISSING」がよかったなあと思える人は、この本もぜひ。
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