「犯した過ちを取り戻せはしないが」と男は言った。「私は同じ間違いを繰り返し続けるような気がするよ」
「瑠璃」(「MISSING」所収)本多孝好 双葉文庫
四つ年上のいとこ、ルコとの思い出。教師や公務員の多い親族の中で、退屈だからという理由で高校を辞め、気が向けばふらふらとあちこちに放浪の旅に出てしまうルコは、「僕」にとってはどこか眩しい存在だった。ただ楽しいという理由で、小学校のプールに忍び込んで泳いだ朝のこと。ルコはむちゃくちゃで、あぶなっかしくて、でも、真夏の太陽みたいに眩しかった。でも、僕もルコも大人になって、ルコはルコらしくなくなってしまった。そして……
短編集。
恋人を失い、ひとり生き残ってしまった男。妹を失い、ひとり生き残ってしまった姉。大切な何かを失ってしまった人の持つ、生きることへの哀しみやせつなさ。後悔という言葉ではおさまりのつかない、胸の中にある暗い想い。
「瑠璃」は所収短編の中でも、前半のきらきらした部分が特異な作品だ(というくらいに、他は物語全体が暗い)。だが、きらきらした夏の思い出があるからこそ、より一層、後半の痛みも大きい。
ひとは過ちを犯して生きるものだ。そのように考えると、この短編集のそれぞれの結末には、やりきれなさをおぼえる人もいるかもしれない。少なくとも、ネガティブ思考の人は、もしかしたら読まないほうがいいかも(さらにネガティブ思考に拍車がかかる)。でも、雰囲気は悪くないし、ミステリとしても悪くはないと思うので、「透明感あふれる」ような話が好きな人にはオススメ。
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