戯れに中山可穂の小説に求めるものについて語ってみる
この一年ほど、わたしは飲み会ごとに、ぽろぽろと中山可穂の小説のオススメをしている。友人・知人の中にはわたしがサイトを作っていることを知らない人もいるし、知っていてもぜんぶを読んでいるわけでもないだろうし。可穂さまのよさを伝えるにはクチコミがいちばん手っ取り早いのだ。
わたしは一応、「雨女さんのススメる本には滅多にハズレがない」と思われている(というか、相手によって『これは絶対この人が好きそうな本』だというものしかススメていなかったからだ^^;)。というわけで、そんなわたしが「無条件でよし」とススメる可穂さまのこと、大抵の人は手にとってくれる。ただし、これに限っては相手を選んでのオススメではないので反応はさまざまだ。これはいける、と思った人は泥沼にはまるがごとく、毎日本屋に通いつめて既刊を揃えるほどになるし、オススメの段階で女同士であることを伏せていた人(も、いるんです^^;)は、本屋にいって後ろの粗筋を読んで買うのを躊躇してしまう。一冊読んで「できれば女同士じゃないものは…」「ないよ」「あ、そうですか…」で終わることも。でもまあ、こうやってインプットしておけば、いつか思い出して読んでくれるかもしれないし。
そういうわけで、先日、またも飲み会で中山可穂をススメていた(しかも、なかなか用意周到なススメ方だったのである……SF好きの知りあいに、コニー・ウィリスについて語り、その流れで佐藤亜紀もSFじゃないけど中身SFっぽくていいですよ、日本語しっかりしているし。日本語がしっかりしているっていえば、中山可穂は文章上手いですよー、と、そんな感じ←ほとんど詐欺←しかもわたし以外の全員が男だという席)。そこに、かつてわたしに中山可穂をすすめられて読み、自分の彼女にすすめてみたらとりあえず一冊くらいで食傷されたという人が、助太刀として、
「せつないんですよ」
というようなことをいった。あまり明瞭な記憶がないが「せつないところがいいですよ」っていったのかもしれない。とりあえず、内容的には「中山可穂の話はせつない」「せつないところがいい」という、そんなものだったことには間違いない(もしここを読んでいて、それは違う、と思ったら訂正してください)。
「えっ、せつない?」
「せつないじゃない?(もしかしたらここで「感情教育」とかさー、とか書名もあげられたかもしれない)」
「せつない……かもしれないけど、せつない小説? んー、なにか違うんだけど。っていうか、せつないから可穂さま読んでるわけじゃないし」
「えええ?」
話は、場がそんなに可穂さまモードでなかったし(笑)、そんな細かいところをえんえん語る雰囲気でもなかったので、そのあとちょこっと話してあとはさらりと流れたが、そのことはわたしの中にかなりひっかかった。
可穂さまの小説に求めるのはせつなさ?
まず猛烈に反省したのは、自分がそのようにススメていたのではないか、ということだ。
せつないからいい、っていってたかな? いってないと思うけど…せつないよねー、とかはいったかもしれないけど、せつなさが可穂さまの小説の中心だとか、そういうことはいってない…いってない、と思う。思いたい。もちろん、せつなくない、とはいわないけど。
これまでもどこかで書いたり語ったりしてきたはずなんだけど、わたしが可穂さまの小説に求めるのは、ひとことでいうと「激しさ」だ。たとえば「卒塔婆小町」(「弱法師」所収)のときの「語り」で書いたことだが、わたしが求めているのは読んでいてせつないとものではなかったから、あの小説にはいまいちのめりこめなかった。なぜなら、わたしが求めているのは、いつか必ず終わる恋、それがわかっていても、なお手を伸ばし、追いかけ、やみくもに自分のものにしようとする激しさだから。幸福に結ばれないことのせつなさ、その痛みの美しさを求めて読むか、それとも最終的には結ばれないまでも一瞬の眩い恋の燃焼を求めて読むか――違いは、そんなところだろうか。
それでも……どうなんだろう。可穂さまの小説って、せつなさを求めて読む人のほうが多いのかもしれない。だから、可穂さまも読者ニーズに合わせて「弱法師」を純愛小説集とかいって売り出しちゃうのかも。そう考えたら、なんだかどきどきしてきた。だって……だって、違うんだもの。
わたしが読みたいのはそういうものじゃないんです! (苦笑)
わたしは(結ばれずに終わるのだとしても)相手を手に入れる一瞬の煌めきがあることを予感して読む。障害を乗り越えて、というよりもむしろ強引に破壊して相手を引き寄せる力強さが存在することを感じたくて、読む。どんなに短いあいだでもい。愛されたい願望を癒してくれる小説だと思って読んでいる――それが、わたしの中山可穂小説の読み方だ。
これは、わたしだけの読み方なのだろうか。
あなたが中山可穂の小説に求めるものは……?
ひさしぶりに、可穂さまについて考え、語りたくなったので書いてしまった。
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