戯れに洋書をススメてみる
これから、何冊か洋書のオススメをすることになると思う。
その前に、わたしの洋書読書歴だの英語力だのを、おそらく赤裸々に語ったほうが、安心してオススメ本を読む気になる、のではないかと思う……ので、書いておく。英語力に自信のある人は、こんなところを読む必要はまったくない(笑)。
まずわたしの英語力だが、資格としてもっているのは英検2級。しかも大学卒業後にとった。これはなにを意味するかというと、ふつうの人が「大学受験直後に受けるといいわよ、力がついてるし」といわれたときには力がなくて落ちた、ということだ。じゃあなにゆえ大学卒業後にとったのか、といえば、大学卒業後に仕事がなくて一年ふらふらしていた時期があり、そのときに暇だったので朝から晩まで一応詰め込んでみた、ということではある……が、その後何年も経っているので、現在2級を受けて合格するかどうかは定かではない。
ヒアリングはけっこう得意なのだが、まず文法と語彙力がない。ライティングはほとんど不可能だと思っている。正直な話、「rainy day」「rainny day」のどちらが正しいのか辞書をひかないとわからない。アンブレラの綴りなんてわたしにきかないでくれ、である。
でも一年間アメリカに行ってきたんじゃないか、という声もあるかもしれない。
ことばなんてわかんなくても異国で暮らすのは簡単である。そして、一年ただ行ったからといって語学が完璧になるなんてのは妄想だ。
そもそもわたしは日本語教師インターンとして行ったので、朝の八時から夕方の五時ごろまで日本語でしか話していなかった。ホームステイ先は日本人に理解があり、片言だろうがなんだろうが一生懸命理解してくれる人々。
話はずれるが、旅行中に出会った母娘の母親のほうが「娘を一年留学させたい、そうしたら英語ができるようになるだろうし」といったとき「無理です」と切り捨ててしまったのは、悪意からでは決してない。日本での下地があり、アメリカ滞在中にも自分の語学を磨くために努力を続ける、そんな人は伸びる。が、日本で授業英語がわかんないから留学でもさせて英語を得意にしようなんて考えは甘すぎる。もしほんとうに英語力をつけたいのなら、中高六年間は日本でしっかりと学び、その後、大学や大学院で留学するのがいいんじゃないかと思う。ただし、この「日本でしっかりと」のなかには「日本でネイティブの先生と話してしっかりと」も含まれていることは付け足しておく。発音その他はやはり若ければ若いほどいい、というのもまた事実だから。
話が英会話の話ばかりになってしまうので、本に戻そう。
まあ、そんなわたしだったので、日本で洋書を読んだ経験はほとんどない。
中学生のころ、「不思議の国のアリス」の英語教材用読本のようなものを読みかけて挫折した(考えてみると、教材としてはあまりむいていない本ではある。その出版社もなに考えてたんだろう)。「はてしない物語」も映画が流行ったずいぶん後に、古本屋でアトレイユが表紙だったので買ってきてはみたが、中にイタリック体の部分があることに恐れをなして、結果的には一ページも読まずに終わる。大学受験直前、長文読解になれるために、と「メアリーポピンズ」なんぞを読もうとしたが、結局、寝る前の数分ずつ頑張ったものの眠気にまけ、最後まで読まずに受験を終了してそのまま。
でも、その状況だってふつうの人よりは洋書を手にしているほうじゃない? と思うかもしれない。そのとおり。だが、これには理由がある。高校時代に仲のよかった女の子が、書店に行くと真っ先に洋書の棚を眺めて歩くような才女だったのだ。その横顔の賢そうな様子に憧れて、自分はまったく実力も興味もないのに、あるふりをして洋書の棚をくっついてまわっていた……ただ、それだけである。
正直、まともに読んだはじめての洋書は「ハリー・ポッター」だった。一巻、二巻と読んできて、当時はまだ出ていなかった三巻をどうしても読みたくなって手を出したのが最初。そのときも、自分が洋書を読みきる自信がなかったので既読の一巻から洋書で読んでみた。
……読めた。
というよりも、ハリポタ日本語版の内容をほとんど覚えていたから読めた、といったほうが正しい。しかもわからないところは辞書をひくんじゃなくて日本語版を読むことでズルをした。そのまま二巻に行き、三巻に行き、四巻にいった。
全部わかったかって? そんなはず、あるわけないじゃないか。
だいたい、ハリポタは洋書の中では初心者に読みやすい部類ではないと思う。クセのあることばが多いし、語尾だのなんだのがねじってあったりするし。
でも、読めた(ということにしておこう)。
そしてわたしは、アメリカへと旅立った。
日本からアメリカへ持っていった本は2冊。1冊は空港本屋で買い、もう1冊は成田に見送りにきてくれた友人にもらった。
なんでそう無謀なことを、と思うかもしれないが、実は以前そこに住んでいた人のレポートに、「紀伊国屋があって日本語の本が手に入る」「近くの古本屋に日本語の本がある」と書いてあったからだ。
が、しかし。
実際には紀伊国屋はステイ先からバスで一時間半。しかも高い。
古本屋(といっても新刊本も並ぶ、ポートランド一大きい本屋)の日本語コーナーにある本は実用書か、そうでなければ読んだことがあるとか、あえて手を出したくはないような本が多い……。
苦しんだ。
キャンプに行って、炎の中に突っ込みかけた新聞の記事を拾って読んでしまうほどの活字中毒である。我慢できない。日本語学校のバザーで買った宮部みゆき三冊ほどを繰り返し読んだが、限りがある。借りた司馬遼太郎やドフトエフスキーもいままでなかった世界をひらかせてもらった気はするが、それでも足りない。新しい話が読みたい。とにかく、いままで読んだことのない活字が読みたい。
そこで、思った。
わたしの英語力って、どれくらいだろう?
本屋に行き、棚と棚のあいだをさまよう。
いちばん読みたいのは未訳SF……無理だ。とてもじゃないが、なにが書いてあるのか表紙さえ理解できない。
ヤングアダルトなら……「スターガール」なんてのが見えるしね。……いや、無理だ。そもそも、文字が小さい。一ページの中にわかんないことばがありすぎて不可能。
ミドルリーダー……小学校4、5年生向け。プライドにかけてもこのあたりだよね……。
結局。
わたしが手にしたのはルイス・サッカー。日本では「穴」の作者として知られる彼は、多才な作品群を持ち、しかもレベルは5歳くらいから「穴」くらいまで……ミドルリーダーからヤングアダルト直前くらいまで。
なにがいいって、まず薄い。厚さでいうと1センチあるかないか。字が大きい。絵がついてある。しかもユーモアがあって笑える。章が短くて、今日は一章分、といって区切りをつけて読むことができる。同じ単語を繰り返し使ってくれるので、一冊読むと二冊め、三冊めを読むのがラク。
そうして。
ルイス・サッカーの発行本ほぼ全冊を読み終えたころにはすっかり自信がつき、ヤングアダルト本に行き、最終的には未訳SFにも手をだしてきた、というわけだ。
そういう話をしたら、でもやっぱりそれは単語量があったんだよ、といわれた。
だからさ。そんなことないって。だいたい、全ページ完璧にわかるはずがないじゃないか。
わかんない単語はたくさんある。文法的にも。これってどっかで習った文法だったような気がする、なんてのが出てきたって、正直わからない。文法書のどこを調べていいのかわかんないし。
でも、10割わかんなくても、7〜8割わかれば筋は楽しめる。
考えてもみてほしい。400枚の小説が1000字であらすじ紹介されたとして……でもおもしろいと思えることってあるじゃないか。だったら、400枚のうち300枚分わかれば充分楽しめる。乱暴ないい方かもしれないが、そういうことだ。
だから、これから洋書のオススメをする。
読んで楽しい本であるつもりだ。
そして。お願いがひとつある。
どうか、わたしにわからない単語だの意味だのをたずねないように……
2002年10月
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