自分の好きな本、自分の読みたい本を買え。自分の判断を信用せよ。信念をもて。
               
 「死の蔵書」 ジョン・ダニング(宮脇孝雄訳) 早川

 続編の台詞を引いてくるなんて邪道だとは重々承知であるが……ほんとうに書きたかった台詞は、これ。

「おれが前に見たことのある女は、美人コンテストで一等賞になれるくらいの美貌の持ち主だった。四五口径の銃弾を誰かがその顔に撃ち込んでいたのが玉に瑕だったがね」(幻の特装本)

 これぞ、クリフォード・ジェーンウェイ。本のあたまの部分に、売れ残りの処分本であることを表す線が引いてあることに対しての、言葉。彼は本に線を引いたり折り目をつけたり、ましてや切り取ったりする人間は許せない。本を愛し本に愛される古本屋、それがクリフなのだ。
 「死の蔵書」冒頭では、ジェーンウェイはまだ古本屋ではなく腕の立つ優秀な警官だ。古本の掘り出し屋が殺された事件を捜査し、犯罪を犯しながらも尻尾をつかませないジャッキー・ニュートンをあげることを願って活躍する。しかし、掘り出し屋の事件に片がつかないままにジャッキー・ニュートンとのある事件に巻き込まれ、ジェーンウェイは警官を辞め、すべての事件から手を引く―――はず、だった。
 警官を辞めたはずのジェーンウェイが掘り出し屋殺しに巻き込まれてしまい、ついには事件を解決してゆく、とまあ簡単にいえばそういう話であるが、この話の面白さは謎解きや大活劇の部分であると同時に本に対する薀蓄である、とわたしは思う。スティーブン・キングやディーン・R・クーンツに対する辛らつな意見や75ドルの投資で1万2千ドルにもなる古本業界の面白さ。
 読書が好き、というよりも、本が好き。そういう人には絶対のオススメである。
 ちなみにわたしはこの本を読んでから、家にある初版本を捨てられなくなった(アメリカと日本ではだいぶ事情は違うだろうが←笑)。



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