「六名様ですか」
「愛しの座敷わらし」荻原浩 朝日文庫新刊
食品メーカーに勤める高橋晃一を主とする高橋家は、しっかりものの専業主婦・史子、クラスの友達とうまくいかなくなってしまって傷ついている中学生の梓美、小児喘息だったことから過保護気味に扱われている小学生の智也、そして最近やや認知症気味の祖母・澄代の五人家族。開発した商品が鳴かず飛ばずで地方の支店に飛ばされることになった晃一に向けられる家族の目は、晃一が見つけてきた古民家に住むことになると知って、ますます冷たくなるが……――
最寄りの駅まで自転車で20分以上。近くにコンビニやスーパーなどあるわけもない。反面、学校の玄関かと思えるほどに広い土間や囲炉裏など、住むためのスペースには困らない。そして何よりこの家には、座敷わらしが暮らしていた。
五歳くらいの男の子の姿をした座敷わらしは、特に何をするわけでもない。それでも、智也が遊んでいると興味深げに近づいてくるその姿に、智也は自然と年下の弟に対するような気持ちになり、いつしか、この座敷わらしを守ってあげたいような気分になるし、祖母澄代は、かつて貧しさのために失った弟のことをせつなく思いだす。
荻原浩のやさしくてユーモアあふれる文体でつづられた座敷わらしの物語。忙しいだけでぱっとしない仕事、学校でのいじめ、そんな息詰まる状況が、座敷わらしのぷにぷにした感じとか、とてとて歩く感じとかの可愛らしい描写でなごまされる。福をはこぶといわれる座敷わらしが高橋家にもたらしたものとはなんだったのか。
かわいらしくって切なくって、笑えて泣ける。荻原浩らしい一冊。オススメ。
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