私も人生に敗けたのだ。朗らかにその宿命に遊ぶことはできないものだろうか。そんな心境になれば、きっとこの痛みも去っていくだろうに――
         
「腰痛放浪記 椅子がこわい」 夏樹静子 新潮文庫

 夏樹静子といえば、たとえ本をあまり読まないとしても、火曜サスペンス劇場だの水曜ミステリーだの、そもそも「夏樹静子サスペンス」などという枠もあるほど2時間サスペンスドラマの原作としてよく使われているから、名前を知らないひとはまずいない、と思う。短篇から長編まで、最近では推理モノ以外の作品も増え、作品数はかなりのもの。書店でも図書館でもずらりと並んでいる。
 さて……その作家夏樹静子が、原因不明の腰痛に苦しめられた三年間あまりを描いたのがこの作品。小説というよりは、いきなりの出だしに「遺書」と出てくるように、生々しい記録となっている。
 この記録は、もしかしたら私の遺書になるかもしれないし、あるいはまた、わたし自身に回生のきっかけを与えてくれるかもわからない。
 第一章はこうして始まる。とにかく、痛い日々。作者が記す以前に正岡子規を想像してしまったのも、横になってじっとしている描写の痛々しさからだろう。
 だが……おもしろい。申し訳ないけれど、おもしろい。あとがきによれば作者自身にむかって、小説よりおもしろいなどといった人もいたようだが(笑)。
 なにせ、金には困らず、しかも著名な作家ということで、あちこちに顔がきく。しかもこの作者、いろんな人に勧められるままに、西洋医学から漢方、はては心霊療法のようなものにまで……とにかく手当たり次第。そしてまた、これが効かないのである。これで治らなかったら金を返すといってきた店は実際に返金してくるし、これで治らなかったら医者を辞めるといった人は…辞めてないだろうけれど(笑)。
 そして、合間に浮かんでくるミステリー作法というか、作家根性というか。とにかく、痛みに苦しみ、死さえ考えた作者には申し訳ないが……おもしろい! オススメである。



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