「そこでは生命同士が生きるために殺し合っているのだぞ。咲き乱れる花のかげに、咲きそこない、枯れ死んでしまった生命があるのだ。醜いぞ。この上なくおぞましい景色ではないか」
「妖星伝」 半村良 講談社文庫
江戸時代、世の中の裏側で暗躍する鬼道衆。殺戮を繰り返し、ひとの不幸こそをよろこぶ彼らが求める伝説の外道皇帝、突けども突けず、刺せども刺せぬ不可侵の身体をもつその盟主はいったいどこにいるのか。黄金城への欲も絡み、鬼道衆たちの動きが盛んになる。各派のそれぞれが手に入れることになった、同時期に現れた外道皇帝の身体をもつ男たち。彼らと知り合うことで、鬼道衆は思いもかけなかったこの世の真実を知ることになる。外道皇帝の身体をもつ彼らこそは補陀洛(ポータラカ・極楽の意味をもつ)からやってきた異星の人々だったのだ。彼らのひとりであり、殺人狂石川光之介の身体に宿った、石川星之介はいう。この星は醜い、と。春の野の、花咲き鳥歌う景色のなんと醜いことか。ここには生命があふれすぎている――と。しかし、それこそは初代外道皇帝、この星にはじめてやってきた補陀洛星人の惑星を改造してまで伝えたかった緊急のメッセージだったのだ。彼はなにを伝えたかったのか。そして、鬼道衆の真の姿とは。
とにかく息もつかせぬおもしろさ。だーっと読んでいて、はっと我に返り、ちょっと待て、あの伏線がこれだけの処理で片付けられちゃうの!? なんて、思ってはいけないのでしょう、きっと。これはおそらく無心にスピード感を楽しむ本だと考えて、まず間違いないと思……っていたのだが。1973年に始まったこの話、1995年に完結編が出たときには、おっとお、実は(それまでも重要ではあったけれど)鬼道衆連中よりこの僧たちの問答が大切だったのね、と目をみひらかされてしまったのである。ということで、ポイントは日円、青円のふたりが語る時間についての問答なのかもしれない。
が。人として生きることとはどういうことなのか。鬼道の女として生まれ、変遷ののちにささやかな市井の一人として死んでいくお幾がいいなあと思うのは、わたしが女だからなのか。濃厚な性描写に中学生にはあんまり勧められない作品であるが、機会があれば、ぜひ。
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