俺はここでの「とんでもない現実」を、自分の血肉にできたと思う。ここで驚いて、悩んで、泣いて、笑って、学んだこと。見たこと、きいたこと、感じたこと、考えたことすべてが体にしみこんでいる。俺の世界の中で生きている。そう感じる。
          
    「妖怪アパートの幽雅な日常」 香月日輪 講談社

 俺、稲葉夕士は念願かなって寮のある学校に合格できた。親友の長谷との別れはつらいけど、両親が亡くなってから三年、肩身の狭い思いをして暮らしていた伯父さん、伯母さんの家から出られるだけでもうれしくってたまらない……はずだったのに、入学前になんとその寮が全焼するという事件がおきる。半年ほどで建てかえられるとはいうものの、それまでの半年だって、もう伯父さんたちとは一緒に暮らせない。暮らしたくない。 
 必死になって格安アパートを探しまわった夕士が紹介されたのは、賄い付き格安物件、寿荘、通称妖怪アパート。絶品の賄い料理に、住宅地のど真ん中だというのに地下洞窟の温泉といいことづくめのようにも思えるが、そこに暮らすのは「人」と「人のようなモノ」と、人にはまったく見えないモノたち。憧れの詩人やら、同じ学校の上級生やらも同じアパートに暮らしていることがわかったが、初めのうち夕士は誰が人間で誰が妖怪なのかの区別もつかずに大慌て。とはいえ、いろんな話をしてくれて、いろんな話を聞いてくれるアパートの住人たちに囲まれて、いつしか夕士の高校生活は思いもかけないほど順調に進んでいたのだった。そんなある日……
 両親を亡くし、一生懸命に肩肘張って、弱みを見せまいとして早く大人になろうと頑張っていた健気な少年が、妖怪アパートで出会った大人たちや妖怪たちによって、肩の力を抜いて生きることをおぼえていく姿がよい。妖怪さんたちも、妖怪さんに負けず劣らずとんでもない人間さんたちも、妖怪アパートに住む人たちはどこか一風変わっていて、けれど懐の深さにおいては余人に変えがたい。ひたすら頑張っていた男の子が、優しさにふれてふっと緩む瞬間が、なんとも愛らしいのである。……すみません、ロコツに腐った感想になってしまいました。が、オススメ。多くの女性はくすぐられます、ええ(苦笑)。なにせ二巻以降になると、親友、長谷との関係やら、途中から担任となった千晶先生との関係ががよりいっそう……(以下自制)。



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