「あの男を許すことはできない。許したら、わたし自身を許せなくなる」
「わかっています。地上につかわされた神さま」
「おやおや。そりゃ、おかどちがいというものだよ。わたしはそんなふうには考えていない。これは個人的な問題なんだ。顔をはられたとか、愛する者が傷つけられたとかいったことと、少しもかわりはしない」
              
「欲望の殺人 第二の大罪」ローレンス・サンダーズ(田中義進訳) 早川書房

 天才画家、メイトランドが何者かに惨殺された。イタリア・ルネサンスの巨匠を思わせる画風で、見る人を驚嘆させるほど才能の持ち主でありながら、奔放で奇矯な性格が周囲の人間を混乱させ、彼を憎むものも多い。人員と経費削減の中、警察も必死に犯人を追うが、捜査はなかなかはかどらず、ついに思い余った上層部は、かつての二五一分署署長、エドワード・X・ディレイニーにメイトランド事件の捜査を依頼した。そこには、メイトランドのおじの州上院議員が警察の予算を左右しかねないという政治的な思惑も絡んでいたが、ディレイニーはそのような政治的な思惑とは別に、自らの警察官としての信念から、悪辣な犯人を捕まえることを決意する。そして、そんな彼を支えるのは、再婚したばかりの妻モニカと、ニューヨーク市警の刑事アブナー・ブーン。アルコール中毒という厄介な状況から脱したばかりのブーンとともに、ディレイニーはメイトランドの妻や息子、母親、妹、画商、弁護士といった、一癖も二癖もありそうな人々の事情聴取に出かける。誰が嘘をつき、誰が誰を陥れようとし、そして誰がメイトランドを殺したのか? そんなある日、またも事件の関係者が殺される……
 大罪シリーズ第二弾。前作「魔性の殺人」で最愛の妻を失ったディレイニーだが、やはり前作で出会った女性と結婚し、いまや悠々の隠退生活・・・・・・というわけにもいかず、またも事件に引っ張り出されてゆく。物語全体もそうなのだが、決して派手なところがあるわけでもなく、頑固なほど地道に、どんな些細なことも見逃さない細心さがディレイニーの持ち味である。だが、丹念な描写ややりとりの中に答えが隠されていて、読み手はいつしか物語世界に巻き込まれること間違いない。
 「魔性の殺人」よりは犯人探し色が強く、いわゆる推理モノになっている。一応シリーズではあるが、前作を読んでいなくても話は通じるので、犯人探しモノが好きな方は、これだけ読んでもいいと思う。



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