「しかし、あいつを見ていると異人も日本人も同じ人間だ、変わりはしねえと思うぜ」
             
「ハンカラさん」(「横浜異人街事件帖」所収 白石一郎 文春文庫

開港まもない横浜。言葉も文化も違う人々が行き交うその町で、元江戸定廻り同心、現在は人足たちのまとめ役となって活躍する衣笠卯之助が、元同僚で、現在は神奈川奉行の与力となった塩田正五郎と力を合わせ、異人と日本人が絡む事件を解決してゆく。腕っ節も強く、義侠心にあふれた江戸っ子でありながら、国際感覚をもあわせもつ卯之助の活躍が見どころの短編集。
日本人には到底理解できないほど、底抜けに明るくお茶目で、しかもちゃっかりしている「ヤンキー」がいる。かと思えば、日本や日本人に理解をよせるオランダ人もいる。異人そっくりの装いで、日本を出ることを願った日本人の女性もいる。ひとつひとつの物語の中に、時代のうねりと、その中で確かに息づく人々の姿がある。謎解きめいた部分もあるが、ミステリというよりは、むしろ「横浜開港」の空気を楽しんで読める小説だと思う。
腕にものをいわせて、非道な異人に対しては「マネ」の繰り返しで慰謝料をとることを忘れない一方、知り合いの異人の私邸で出されたチキンの丸焼きに四苦八苦する卯之助の姿がなんともいえずおもしろい。維新前の話だといっても、難しい政治的なことはないので、ぜひ楽しんで読んでいただきたい。



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