そこにはただ死んだ目か、無表情な顔が、開いた口が、目的も心もない動きが、かすかな腐肉の悪臭があるばかりだった。
生きた子供たちを教えていたときと、それほど大きな違いがあるわけではない。
「最後のクラス写真」(「夜更けのエントロピー」所収) ダン・シモンズ(嶋田洋一訳) 河出書房新社
ギース先生のクラスは22人。これ以上の数になるとクラスをまとめていくのは難しい。しかも、今日はクラス写真を撮る日だというのに、また新しい生徒がやってきた。だが、そんな贅沢はいえないはず、とギース先生は自分自身を戒める。だから、今日からギース先生のクラスは23人……23人の死んだ生徒たち。首輪と足枷につながれ、死肉でつくったナゲットほしさにもだえるだけ。子供たちの痙攣的な反応は、ただの偶然にすぎない。けれど、それがわかっていてなお、ギース先生は授業を続けていた。大苦難の前、子供たちを守っていたように。いまなお、彼女は大人のゾンビたちから、子供たちを守ろうとしている。けれどそんなある夜……
短編集。
ゾンビ、吸血鬼、ベトナム戦争、エイズ……といったキーワードでくくることのできる各作品。それだけ聞くと眉をひそめる人もいるかもしれないが、第一話めの「黄泉の川が逆流する」で生き返った母親にがつんとやられ、そのまま、悪趣味なレジャーランドを皮肉った「ベトナムランド優待券」にすすむと、おそらくそれだけでシモンズの虜になることは間違いない。
河出書房の奇想コレクションはこれまでも何冊か読んできたが、特にこのダン・シモンズはよい。
死者への優しいまなざしと、生をふみにじる者に対する苦々しさと。数々の賞を受賞した作品も収められている。オススメ。
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