あのころ、祖父の家のなにもおかもが魔法のように思えたものだ。
いや、訂正しよう。あのときには実際魔法がかかっていたわけだ。いまでもそうだという可能性も大いにある。
「メルストーン館の不思議な窓」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(原島文世訳) 東京創元社
大学で歴史を教えているアンドルー・ホープは、もろもろの事情のせいで祖父の臨終に間に合わず、ゆえに、祖父が自分自身の手で譲り渡そうと思っていた守護域のことについては何ひとつ知らぬまま、遺言によって受け取ったもろもろとともに引き受ける羽目になってしまった。とはいえ、譲り受けた遺産によって教職を辞め、念願の執筆活動に専念できるとなれば、あれやこれや我慢しなければならないことなど、些細な話だ。しょっちゅう不機嫌で、八つ当たりのようにして偏った料理しかしない家政婦、横暴な庭師、そんなの大したことじゃない。実際、問題なのはむしろ祖父の(いまはアンドルーの)所有地で我が物顔にふるまうミスター・ブラウンや、妙な魔力を持つ男の子エイダン・ケインのほうで……――
巻き込まれ型の主人公が、気づけばあれよあれよという間にとんでもない事件の中心となっている点では、「魔法使いハウルと火の悪魔」などと同様に、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの手腕が存分に生かされている。家政婦に「大学教授ってものは!」と毒づかれても仕方ないほど上の空でぼーっとしているアンドルーより、周囲の人間のほうがよほど強烈。ただし、アンドルーはそんな彼らをうまくまとめて使いこなしているので、実は彼のほうが、いちまい上手なのかもしれない。
さて、ミスター・ブラウンはなぜアンドルーにかかわってこようとしてるのか。守護域とはいったいなにか。メルストーン館の窓の謎は? すべてはメルストーンの夏祭りで明らかに。お祭り騒ぎがラストにあるなんて、そのあたりもしゃれている。ユーモアたっぷりの楽しいファンタジーをどうぞ。
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