彼がダーコーヴァにきたのはこのためだった。
 彼が生まれたのは、まさにこのためであるかもしれなかった。
            
「惑星壊滅サービス」 マリオン・ジマー・ブラッドリー(中村融訳) 創元推理文庫  ダーコーヴァ年代記6

 惑星ダーコーヴァ。機械化産業や鉱業、あるいは運輸業は許されておらず、輸出入の製品やサービスが継続して取引されることもない。これまで惑星を公開して植民地化、工業化を進めようとする地球帝国の試みはことごとく無視されてきたのだ。だが、このような惑星を投資家が見逃すはずもない。有益な投資を行うための穏和な試みがことごとく無視されたいま、残る手段は惑星壊滅サービスの介入。非合法的、隠密裏に働く彼らの仕事とは、惑星の経済を壊滅させ、否応なく地球帝国の投資家の介入を許さざるをえない状況に追い込むことである。惑星壊滅サービスの責任者はアンドレア・クロッスン。彼女の容赦ない攻撃が始まった。
 次々に暗殺されてゆくテレパシーを持つコミン貴族たち。頻発する山火事、おそいかかる飢饉、領民たちの苦しい悲鳴。なす術もないままに子どもふたりを失ったレジス・ハスターが立ち上がる。己の身にふりかかってくる暗殺者の刃から逃れながら、彼が探した手段とは、旧友ドクター・ジェイスンの力を借りて、全宇宙からテレパスたちを呼び集めることだった。ハスターの呼びかけに答えて、伝説の非・人類チエリまでもが森から姿を現す。彼らはテレパスの特殊性を科学的に解明することができるのか。そして、ダーコーヴァを救うことは可能か――
 襲い掛かる惑星壊滅サービスは恐ろしいが、物語の中心となるのは地球帝国の医師でもあり、テレパスであもるデイヴィッド・ハミルトンと、非・人類チエリ、ケラルとのこころの交流である。彼/彼女/それ――ケラルのことをどう扱っていいのかわからぬままに惹かれてゆくディヴィッドと、人間と、自分自身を恐れつつもデイヴィッドを受け入れてゆくケラル。それはダーコーヴァ年代記の多くの物語がそうであるように故郷探し、自分探しの物語でもあり、他者を受け入れてゆく成長の物語でもある。
 ここでひとまず、地球帝国とダーコーヴァとの相克の物語は終わりを告げ、邦訳ではこれより後の時代は出版されてはいない(もっと古い時代の話が主に書かれているので)。だが、これから先――新しいラランの使い方を学んだダーコーヴァ人たちの姿や、地球帝国との新しい関係が読みたいのはいうまでもない。
 やはり、ダーコーヴァ年代記の復刊と、あらたなる訳出を願う。



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