「ぼく、ママに、アーニーの面倒を見るって約束したんだ」と、バートはうめくような声を出した。必死だった。「それなのに、もしセントルイスにもどされたら、ぼくたち、離れ離れになっちまうんだ」
「ウルフ谷の兄弟」デーナ・ブルッキンズ(宮下嶺夫訳) 評論社
母親を亡くし、セントルイスにある母のいとこジーンのもとで暮らしていたバートとアーニーの兄弟。しかし、子どもがそれほど好きではないジーンは、バートとアーニーをウルフ谷に住むチャーリー伯父さんのところに預けることにしてしまった。ほとんど会ったことはないが、それでもかすかな記憶では優しかった伯父さんのもとに来られたことを喜ぶバートたちだが、妻を亡くしてからアルコール中毒になってしまったという伯父さんに子どもたちを育てる余裕はない。ふたりは互いに助け合いながら自分たちで生活していかねければならなかった。とはいえ、しっかりもののバートと、無邪気なアーニーの兄弟は、少しずつ町や学校に溶け込み、いつしか少しずつ谷の生活にも慣れていく。だが、そんなある日、ふたりは谷の中で親しくしてくれていた女性の死体を発見してしまう。犯人は誰か? まだこの谷の中にいるのか? そんな中、ふたりは大きな秘密をかかえてしまう……
ちょっと古い時代の物語。母を亡くして弟のためにけなげに頑張る兄バートと、貧しい生活の中でも明るさを忘れない無邪気な弟のアーニーの姿がよい。どんなに苦しくても、なんとか頑張っていこうとする健気さと、貧しい暮らしの中にも訪れる季節。うつりゆく自然の季節の中に、殺人事件まで描かれているという贅沢な作品といえる。
1979年エドガー・アラン・ポー賞受賞作。古いといわずに、ぜひ。
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