人間とは、そうしたものだ。いつでもそうなんだ。恐怖心とともに暮らしている。恐れているものは、いつもほからならぬ自分自身なのだ。
          
「中継ステーション」 クリフォード・D・シマック(船戸牧子訳) ハヤカワ

 ウィスコンシン州の山奥に、ひとりの男が住んでいる。記録どおりならば彼はすでに百二十四歳。しかし、外見は三十歳よりもっと若いかもしれない。土地の人々は彼を、彼が歳をとらないことを受け入れ、仲間うちで話題になることはあっても、よそ者には決してもらさない。郵便配達夫が必需品を彼に届けている。それ以外にはなんの変哲もない田舎の家――そこが銀河系宇宙の中に記された中継ステーションだったのである。
 だが時代は移り変わり、静かに暮らしていたはずの彼に気づくものが出てきてしまった。そして、彼が埋葬した霞人間の死体が奪われるに至って、ことは地球全体を脅かすようなものになっていく。彼は地球を救うことができるのか。
 と、こう書いていくとなんだかすごい話のようなのだが、シマックは違う。そもそも、ここに登場する人々はみんなどこか優しい。主人公のイノックは多くの宇宙人たちと知り合い、他の世界を知りながらも地球を愛し、恐ろしい戦争が忍び寄りつつある現状を誰よりも憂えている。彼が中継ステーションの管理者、地球の代表として願うのなら、迫りくる戦争をとめる手段がある、といわれながらも、自分ひとりで人類全体の未来を決めてもいいのか、と悩む謙虚な男でもある。イノックのただひとりの友人、郵便配達夫のウィンスロウが、イノックの不思議を不思議として受け入れている姿も大きくて優しい。
 いろんな未来があり、いろんな世界があるのだけれど、シマックの描く人々の善意が広がる世界もいいなあと思う。いま流行の言葉でいえば、癒し系のSFである。



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