亜紀さん。選べなかった未来、選ばなかった未来はどこにもないのです。未来など何一つ決まってはいません。
   
       「私という運命について」 白石一文  角川文庫

 冬木亜紀、二十九歳。大手メーカーの営業部に総合職として勤務する亜紀は、後輩である亜理沙の結婚式の招待に、出席すべきか欠席すべきか迷っていた。亜理沙の相手である佐藤康は、二年前まで、亜紀の恋人だった。プロポーズされ、別れを切り出したのは亜紀のほうだ。未練はない。けれど……――。久しぶりに会った康から、康の母親がいまだ亜紀を嫁に迎えたいと待ち望んでいることを聞かされた亜紀は、康と別れた直後に、彼の母親、佐智子から手紙をもらったことを思い出し、その手紙を探そうとする。そして、二年の歳月を経てようやく読んだその手紙に書かれていたこととは……――
 物語は、佐智子から亜紀への「雪の手紙」、親の決めた結婚相手と結婚することを疑問に思わず、選択しないことでしか本当に受け入れることができない、という幼いカップルの片割れ、明日香からもらった「黄葉の手紙」と、亜紀が受け取った手紙ばかりではなく、亜紀の周囲にいる人がもらった「雷鳴の手紙」など、手紙を中心に据えて進められる。二十代後半から四十代前半になるまでの、揺れる十年が、手紙という小道具でくっきりと描き出されるあざやかさ。
 数学科の某先生(女性)からのオススメ本。作者は男性だが、女性を対象にした本だなあ、と思う。出産=幸福という図式には首肯できかねる部分もあるが、そういうことも含めて亜紀が自分の「運命」について考える点には、いろいろ感じる部分もあった。三十代以上の女性にオススメ。



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